「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
「カフェが好き」な人は非常に多いが、日本国内の店舗数は1981年の「15万4630店」をピークに減り続けている。最新の数字は「6万9983店」(2014年)と全盛期の半分以下だ(総務省統計局の調査「経済センサス」を基にした全日本コーヒー協会の発表資料)。
一方、喫茶店の市場規模は14年度の1兆611億円から15年度には1兆1270億円と伸び(日本フードサービス協会の推計調査)、コーヒーの輸入量は81年当時の倍以上に増えた。つまり、単純な衰退産業ではなく、事業者が入れ替わる活性産業ともいえる。
そんな日本のカフェについて、筆者はメディアから質問を受けると、「基本性能」+「付加価値」で説明してきた。基本性能とは「飲食と場所の提供」で、付加価値は「店の魅力づくり」のことだ。たとえば、付加価値に「メイドさんの接客」がつけば、「メイドカフェ(メイド喫茶)」、愛犬を連れて飲食できれば「ドッグカフェ」、店の愛猫をめでると「猫カフェ」となる。
こうした付加価値が多種多様なのも、外国には少ない、日本のカフェの特長といえる。
ドトールが始めた「ブックカフェ」
6月30日、東京都内のターミナル駅である池袋駅近くの商業ビル「エソラ池袋」4階に「本と珈琲 梟書茶房(ふくろうしょさぼう)」というブックカフェがオープンした。今月、筆者もお声がけしてくれた毎日新聞の女性記者と一緒に取材に訪れた。
ブックカフェとは店内で本を読みながら飲食ができるもので、現在有名なのは「スターバックス」と「TSUTAYA」の提携店だ。全国に1288店の店舗(2017年6月末現在)を持つ、国内カフェ最大手のスタバと、書店、レンタル店、インターネット事業、出版・映像、音楽制作など幅広く事業を展開するツタヤ(運営会社はカルチュア・コンビニエンス・クラブ)が手を組んだ同店によって、ブックカフェという業態の認知度も上がった。ただし、後述するが、個人経営の店(個人店)で、昔からあった業態だ。
今回紹介する梟書茶房を運営するのはドトールコーヒーで、同社が展開する「ドトールコーヒーショップ」は全国に1124店の店舗(17年7月末現在)を持つ国内2位のコーヒーチェーンだ。ブックカフェという業態は、スタバの向こうを張ったかのようにみえるが、店の中身はかなり違う。コンセプトやテーマを明確にして、来店客に訴求しているのだ。
「もともと『池袋には重厚感があるカフェが少ないよね』といった話から始まり、選りすぐりの本とコーヒーで『新しい出合い』を提供する店にしたいというアイデアに行き着きました。店内のイメージは、英国の国立図書館である大英図書館です」(ドトールコーヒー新規事業統括本部・新業態企画チーム 沼田好平氏)
約100坪の店内には3000冊の本が置かれ、そのうち2000冊を販売、残りの1000冊が自由に閲覧できる。本の選定は「かもめブックス」オーナーの柳下恭平氏が行い、販売する2000冊は書名を出さずに包装(袋とじに)し、説明文で内容を伝えるのも、同氏のアイデアだという。お客の立場から見れば、中身のわからない本を“福袋感覚”で探すことになる。
カフェとして「珈琲」「ドリンク」「フード」「スイーツ」メニューも揃っている。「梟ブレンド」と呼ぶホットコーヒーを、淹れるのに時間がかかるサイフォンで抽出するのも「特別な時間を愉しんでいただくため」だという。