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白井美由里「消費者行動のインサイト」

なぜサステナブル商品は売れないのか?「好きだけど買わない」に潜む消費者の購買行動

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授
なぜサステナブル商品は売れないのか?「好きだけど買わない」に潜む消費者の購買行動の画像1
「Getty images」より

 SDGs(持続可能な開発目標)の達成に世界的な関心が高まる中、サステナブル、エシカル、グリーンといった言葉が耳目に触れる機会はますます増えていると思います。マーケティング・コンセプトの変遷を見ると、1990年代にグリーンマーケティングに対する社会の関心が高まり【註1】、生態系保護や自然環境保全を目的とした製品の長寿命化やリサイクル、省資源製品開発などの取り組みに注目が集まりました。2000年代に入ると環境問題に加えて、労働者の人権、貧困、動物の取り扱いなどの社会問題も配慮したエシカルマーケティングが台頭し、フェアトレードの拡大とともに社会貢献事業が増加しました。

 近年では、消費者や企業の未来の世代のために権利と選択肢を守りながら現在のニーズを充足することを目指したサステナブルマーケティングへと対象範囲は広がっています【註2】。消費者行動研究でもこの流れに合わせてグリーン消費、エシカル消費、そしてサステナブル消費をテーマとする研究が盛んに行われています。尚、これらの消費には重なる部分が多いので、同じ内容でも人によって異なる用語が使われています。

 サステナブル消費の重要性はますます高まっています。ところが、サステナブル商品の市場は依然として成長していません。サステナブル商品がマーケットリーダー、すなわちトップブランドになっている製品カテゴリーは見当たらないというのが現状です【註3】。それはなぜなのか。今回はこの理由に焦点を当てたいと思います。

サステナブル商品は好きだけれども買わないという現象

 多くの研究で指摘されていることは、サステナブル商品に対する消費者の態度と行動にはギャップがあるということです。消費者は、アンケート調査ではサステナブル商品をポジティブに評価し、購入意欲を示します。中には価格が高くても買うと回答する消費者もいます。

 しかし、実際に買う人はずっと少なく、サステナブル商品は売れないのです。必要な商品であり好意的に評価しているけれども買わない。これは、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど様々な国で共通して見られる現象であり【註3、4、5】、日本も例外ではありません。アンケート調査で一般的な関心や購入意向を尋ねるだけでは消費者の購買行動を理解するのは難しいということが示唆されています。

 レクゼックとアーウィンは、多くの人は良くなりたい、モラルのある人間になりたいと思っているので、道徳的な価値観を示すサステナブル商品の購入はその欲求を満たすことができ、幸福感や満足感が得られる手段になると述べています。そうだとすると、買わない理由は何なのか。レクゼックらがあげているのは、サステナブル商品の選択時に生じる2タイプのコンフリクト(葛藤)の存在です【註3】。

サステナブル商品の選択で生じる1つ目のコンフリクトとは

 その一つは、サステナブル商品を選択する際、商品の属性間でトレードオフが生じやすいということです。サステナビリティという点で商品評価が高くても、他の属性が低く評価されてしまうのです。これを実証したのはルクスらの研究です【註5】。ルクスらは、概念間の潜在的関連性を調べる潜在連合テスト(IAT)を行い、「エシカリティ」は潜在的に「安全」「マイルド」「健康」「子供に良い」「ソフト」といったイメージを持つ製品との関連性が高く、「パワフル」「タフ」「きっちり仕事をする」「効果が高い」といったイメージを持つ製品との関連性が低いことを明らかにしました。

 また、優しさと関連する属性(安全、マイルド)が重視されるベビーシャンプーと強さと関連する属性(パワフル、タフ)が重視されるカーシャンプーを比較し、サステナブル商品はカーシャンプーよりもベビーシャンプーの選択で好まれることを示しました。同様に、強さが重視される洗濯用洗剤でも、サステナブル商品よりも一般的な商品のほうが好まれることを確認しています。つまり、機能や効能が重要となる製品カテゴリーでは、それらが相対的に劣ると感じるサステナブル商品の選択にコンフリクトが生じやすいのです。

 リンとチャングはさらに、使用量への影響を分析しています【註6】。マウスウォッシュとガラスクリーナーを用いた実験から、サステナブル商品は一般的商品よりも効果が弱いと感じられているため、一回の使用量が多くなること明らかにしました。この結果は、特に価格意識の高い被験者に顕著に見られています。ただし、追加的に商品の有効性を示す情報を提示した場合には、使用量が減少することも示しています。せっかくサステナブル商品を購入しても使用量が必要以上に増えてしまうのであれば、環境的にも経済的にも望ましいとはいえません。サステナブル商品の販売ではこの点を考慮する必要があります。

サステナブル商品の選択で生じる2つ目のコンフリクトとは

 サステナブル商品の選択で生じるもう1つのコンフリクトは、「こうしたい」という考えと「こうするべき」という考えが消費者の中で対立することよって生じます。この2つの考え方はバザーマンらが提唱しました【註7】。「こうしたい」は面倒なことは考えずにすぐに喜びを得ることへの欲求で、「願望自己(want self)」と呼ばれます。「こうするべき」は冷静に思考し合理的に判断することへの欲求で、「規範自己(should self)」と呼ばれます。

 これらの2つの自己が対立し、どちらかを選ばなければならないという状況は日常生活でよく見られます。ピザを食べるかサラダを食べるか、家でゴロゴロするかジムに行くかなどは典型的な例です。一般に、規範自己に合わせた行動をとるためにはセルフコントールが必要です。衝動的な願望自己を抑えて規範自己を強化するのにかなりのエネルギーを使います。したがって、疲労や睡眠不足などでセルフコントロール資源が不足しているときは、倫理的な行動は減少すると言われています【註3】。このような状態では、面倒な規範自己よりもシンプルで衝動的な願望自己のほうが勝ってしまうのです。

 サステナブル商品の選択は規範自己の働きによるものです。サステナブル商品の場合、その特徴を理解するのに時間とエネルギーを使うので、消費者に時間的な余裕と精神的な余裕がなければ注意を向けるのが難しくなります。「サステナブル商品を買うべきである」という規範自己と「他の商品を買いたい」という願望自己が共存するとき、コンフリクトが生じます。

サステナブル商品の購入を促進するには

 コンフリクトはネガティブな感情を喚起します。また、ネガティブ感情は環境問題や社会問題の深刻な状況を知ることによっても生じます。ネガティブ感情は不快なので、その感情が強いとサステナブル商品を理性的に評価することを難しくします。レクゼックらは、こうしたエネルギーの消耗やネガティブ感情に対処するために消費者がとる戦略は、選択時点でネガティブなエシカルな問題を考えないようにすることだと説明しています。サステナブル商品について知ろうとするのではなく、考えること自体を避けてしまうのです。これは「意図的な無知(willful ignorance)」と呼ばれます。

 消費者がサステナブル商品を選択しない理由は他にもあるかもしれませんが、少なくともこの2つのコンフリクトの両方、あるいはいずれかが生じたことにより避けられている可能性があります。サステナブル商品の購入を促進するためには、どのようにしたらこれらのコンフリクトが緩和するのかを考えなければなりません。機能が商品選択の決め手になる製品カテゴリーでは、サステナビリティに関する商品情報に加えて、機能に関するエビデンスの提示があるといいでしょう。

 また、消費者にサステナブル商品を迷いなく購入してもらうためには、情報の提示の仕方を工夫する必要があります。情報を得るにも理解するにもそれほど時間やエネルギーを使わなくてすむような形での提示を考えます。レクゼックが提案する情報の標準化と商品パッケージなどへの表示は有効な手段になるでしょう【註8】。また、サステナブル商品には、オーガーニック、グリーン、フェアトレードなど専門用語が多数あるため、それらを十分に理解していないことが購入の障壁になっている可能性があります。これらの情報がわかりやすいメッセージで買い物環境に示されるといいでしょう。

 最後に、サステナブル商品の購入が環境問題や社会問題の解決にどれだけ貢献するのかがわからないということが、消費者がサステナブル商品を身近に感じない原因になっています。レクゼックも指摘していることですが、例えば「この商品を〇〇個購入するとCO2排出をこれだけ減らせる」といった具体的な情報があると、消費者の貢献意識が高まり選択されやすくなるでしょう【註8】。

(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

【参考文献】

【註1】Narula, S. A. and A. Desore (2016), “Framing green consumer behaviour research: opportunities and challenges,” Social Responsibility Journal, 12 (1), pp. 1-22.

【註2】Kotler, P., G. Armstrong, L. C. Harris, and N. Piercy (2016), Principles of Marketing, Pearson Education.

【註3】Reczek, R. W. and J. R. Irwin (2015), “Ethical consumption,” in The Cambridge Handbook of Consumer Psychology, eds. M.I. Norton, D. D. Rucker, and C. Lamberton, Cambridge University Press, pp. 507-529.

【註4】Kimel, A. J. (2018), Psychological foundations of marketing: The keys to consumer behavior, Routledge.

【註5】Luchs, M., R. W. Naylor, J. R. Irwin and R Raghunathan (2010), “The sustainability liability: Potential negative effects of ethicality on product preference,” Journal of Marketing, 74 (5), pp. 18-31.

【註6】Lin, Ying-Ching and C. A. Chang (2012), “Double standard: The role of environmental consciousness in green product usage,” Journal of Marketing, 76 (5), pp. 125-134.

【註7】Bazerman, M. H., A. E. Tenbrunsel, and K. Wade-Benzoni (1998), “Negotiating with yourself and losing: Making decisions with competing internal preferences,” Academy of Management Review, 23 (2), pp. 225-241.

【註8】Reczek, R. W. (2020), “Why Don’t Consumers Always Shop Ethically?” MSI Webinar, November 13, 2020, https://www.msi.org/wp-content/uploads/2020/11/Why-Dont-Consumers-Always-Shop-Ethically.pdf.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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