テレビCMによる中断、番組をより楽しいと感じさせる効果…中断が消費者行動に与える影響
意思決定や取り組んでいた課題を中断したという経験は、誰にでもあると思います。電話がかかってきた、メールを受信した、人が訪ねてきた、ほかにやるべきことを思い出した、休憩を取ったなど、中断はさまざまな理由によって生じます。心理学ではこの中断の影響を長年研究してきていますが、それらの先駆けとなる研究は、心理学者でもあり、精神科医でもあるブルーマ・ツァイガルニクが1920年代に実証した、人は完了した作業よりも中断した作業をよく覚えているという現象です【註1】。この現象は、発見者の名をとって「ツァイガルニク効果(Zeigarnik effect)」と呼ばれています。
ツァイガルニクは複数の実験を行っていますが、その一つを紹介しますと、完了させる作業と中断させる作業の数を半々にした22種類の作業を用意し、それらの提示順序を変えて被験者に実施してもらい、終了後に自分が行った作業について思い出してもらいました。その結果、被験者は中断した作業を完了した作業よりも1.9倍も多く覚えていたのです。また、中断したままの作業と中断後に再開し完了した作業を半々にした18種類の作業を、提示順序を変えて実施してもらった実験では、被験者は前者を後者よりも1.85倍も多く覚えていることがわかりました。
人が中断したまま未完了となっている作業をよく記憶しているのは、「タスクを完了したい」という完結欲求が満たされていないため、作業が完了することによって解かれる緊張感が残っているからです。
ツァイガルニク効果は、その後、複数の研究者によって再現実験が行われていますが、課題の性質や実験方法などの影響を受けるため、一貫した結果は得られていないようです【註2】。しかし、中断は多くの研究者の注目を集めるようになり、これまでにさまざまな研究成果が発表されてきています【註3】。そこで今回は、消費者行動研究における中断の研究を紹介したいと思います。
中断した意思決定を再開すると、実現の可能性よりも望ましさが重視される
中断してから再開した場合と中断が入らなかった場合とでは、意思決定の結果は変わらないと思われるかもしれません。しかし、中断した意思決定を再開すると、見方が変わり、「実現可能性」よりも「望ましさ」を重視するようになることが、リュウによって示されています【註3】。