電力完全自由化のブームとは裏腹に、ユーザーの腰は重かった。そして今も、新電力への切り替えは思うように進んでおらず、新電力は苦戦を強いられている。
その理由は、なんといっても「従来の電力会社と新電力との差別化ができていない点」(業界関係者)にある。結局のところ、電力自由化でユーザーが受ける最大の恩恵は料金のみにとどまる。その価格ですら、新電力は優位に立てるほどの力がない。従来の電力会社に対して規模で劣る新電力は、価格で対抗できるほどのインパクトを打ち出せないのだ。
オリックス電力の撤退
そして、電力完全自由化から1年。早くも電力競争から脱落する新電力も現れ始めた。07年に設立された日本ロジテック協同組合が昨年に経営破綻。同社の年間売上は555億円もあり、新電力ではそれなりの規模を誇る。新電力の中では大手ともいえる日本ロジテック協同組合の破綻は、電力業界に大きな衝撃を与えた。日本ロジテック協同組合の破綻以降も新電力に厳しい情勢は変わらない。
それどころか、ますます厳しさを増している。このほどマンション向けの電力販売を中心に顧客を開拓してきたオリックス電力が、電力小売りから撤退を表明。オリックス電力は首都圏を中心に顧客を約8万件も抱える。新電力において、8万件の契約数は好成績の部類に入る。順調に契約数を伸ばしてきたオリックス電力が電力小売りから撤退することは、電力ビジネスの限界を示唆している。
ほかの新電力は、どうか。
東急沿線を中心に約10万世帯と契約している東京急行電鉄子会社の東急パワーサプライは、世田谷区・川崎市・横浜市などの沿線を中心に顧客を抱える。鉄道事業とコラボしたキャンペーンなども積極的に展開し、今年は品川区の商店街と連携。「新電力のPRに努めた成果もあって契約件数は増えている。今後も増える見込みは強い」と東急電鉄の関係者は成果が上がっていることを強調する。
健闘しているとはいえ、東急パワーサプライの契約件数はいまだ10万件。それらを踏まえると、新電力は従来の電力会社を脅かせるほどの勢力には成長していないのが現実だ。
また、オリックス電力の事業を継承する関西電力も、電力の完全自由化によって首都圏へと進出したが、首都圏での契約件数は1万4000件にとどまっていた。既存の大手電力会社といえども、自分たちの営業範囲外では大苦戦しているのだ。
このままでは、電力自由化は絵に描いた餅になる公算が高い。鳴り物入りで始まった電力の完全自由化がもたらしたのは、新電力の乱立による「混乱」だけということになるのかもしれない。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)