兜町の再生計画
このまま手をこまねいていれば、証券取引の聖地・兜町は埋没してしまう。輝かしい歴史をつくってきた兜町を消滅させるわけにはいかない。そんな危機感を抱いた業界関係者や地元住民・商店街関係者・中央区は一致団結。兜町を再生させるための計画を練り始めた。
兜町の再生計画が動き始めると同時期に、世間ではゼロ金利で銀行にお金を預けていても無意味になったことで、投資ブームの機運も高まりを見せていた。金融庁でも、森信親長官が掲げる「貯蓄から資産形成へ」の方針を推奨。それが、投資額は小さいながらも個人投資家を増加させる一因になった。
個人投資家の増加を敏感に嗅ぎ取ったのが、旅行代理店だ。前述したように、兜町は東京駅や銀座から徒歩圏。また、移転問題でクローズアップされている築地市場からも近い。そうした地の利を活かし、旅行代理店は投資初心者を対象にした「証券取引所を見学し、築地で舌鼓を打ち、銀座で買い物する」という一日ツアーを売り出す。これが、思わぬヒット商品となっているのだ。前出の中央区職員は言う。
「旅行代理店が売り出しているパッケージツアーのほかにも、旅行代理店を通さないで2~6人前後の友達同士で兜町・築地・銀座を巡る方々も多いようです。そうした方々もいるので正確な実数は把握できていませんが、いろいろな関係者からの話を踏まえると推定でも年間7万人が証券取引所を訪れているようです。そうした“観光客”がもたらす経済効果は決して小さくありません。思わぬ観光特需に、地元は沸いています」
しかし、築地市場の豊洲移転は迫っている。兜町に7万もの観光客が押し寄せるのは、見学後に訪れる築地の“食”を目当てにしている部分も大きい。
中央区は、築地市場がある今のうちに証券取引所を訪れる観光客を10万にまで増やし、兜町ブランドを確固たるものにしようと躍起になっている。築地市場は早ければ来年度にも豊洲に移転してしまうが、それでも兜町界隈は意気消沈していない。現在、中央区はあちこちで再開発を活発化させているからだ。
「現在は日本橋地区の再開発に取り組んでいますが、兜町でも再開発計画が進められています。不動産デベロッパーの大手の平和不動産は、『兜町7地区』と呼ばれるエリアに複合ビルの計画を発表しています。これは、2020年にオープンする予定ですが、その後も兜町の再開発は目白押しです」(同)
奇しくも小池百合子都知事が「東京を国際金融都市にする」と宣言したことも、兜町復活を後押しする好材料になっている。東京の不動産は五輪特需ともいえる活況を呈しているが、五輪後はその反動を懸念する声も聞かれる。しかし、兜町にその心配は少ない。兜町には、経済界からも注目が集まっている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)