政府としては、制度面の拡充を求めるだけでなく、不正排除のための取り組みを支えることも必要だ。そうした取り組みが国内の企業全体で是は是、非は非として扱う“是々非々”の価値観を涵養することにもつながるのではないか。
経営管理のためにも重要な“省人化”
個別企業の経営者の視点に立ち返って考えると、少なくとも経営者は“性悪説”をもとにして、組織全体が望ましい方向に向かうよう取り組まなければならない。具体的には、品質検査、内部監査等が常に、一定の基準に基づいて実施されていくために、ヒトの判断や感覚に頼った部分を極力少なくしていくことが求められる。「これくらいなら、いいか」という妥協を許さない経営者の心構えと、それに向けた取り組みが必要だ。
どのようにすればよいかといえば、人が関与する部分を減らすことだろう。少子高齢化が進むなか、人から人へ技術の伝承を進めることは容易ではなくなっていく。製造の現場だけでなく経営管理のための省人化を進め、見落としなどのムラを排除し、客観的な生産のモニタリング、安全基準の審査などを行うことの重要性は高まっていくと考えられる。
これまで蓄積されてきた検査などのデータを分散型のネットワークで管理し、企業の各生産拠点で発見された部品や完成品の不備に関するデータを入力することで、理論的には検査態勢の向上が期待できる。それを実際の使用データと関連付けることで、検査基準が適切か否かを検証することも可能となるだろう。その上で、有資格者による検査などを行うことで、不正の可能性を低下させることはできるだろう。
今日、ネット企業や新興国企業の成長などによって、企業間の競争は熾烈化している。そのなかで、不祥事の発覚などによって競争力を低下させてしまうと、海外の企業に買収される可能性が高まる。その結果、国内での業界再編が進み、他の企業にも無視できない影響が及びやすくなっている。
このように考えると、日産や神戸製鋼の不祥事発覚を対岸の火事として考えるべきではない。個々の企業の内部に、同じことが発生するリスクはある。今から、経営者は不祥事の発生を防ぐ取り組みを一つひとつ進めるべきだ。そうした取り組みが組織の強化につながり、企業の持続性を高めることにもつながるだろう。
(文=石室喬)