しわ寄せは生産の現場に集中
無資格者による完成検査が大々的に報じられながら不正を続けていたことについて西川社長は、「過去からずっとやってきたことを今日から駄目と言われても(理解)できなかった」と、20年以上にわたって続けてきた行為が半ば慣習化していたと見る。さらに西川社長は「(原因について)明らかなのは組織運営の要が、現場のトップである工場長、部課長、係長へと続く指揮命令系統の過程で、課長と係長とのコミュニケーションのギャップに落とし穴があった」と、係長の責任と言わんばかりだった。
日産に部品を納入しているサプライヤーは「(日産の工場は)生産を増やしている一方で、現場の人数をなるべく抑えようとするので過度の負担がかかっているのでは」と見る。日産、ルノー、三菱自動車の会長を務めるゴーン氏は、3社のアライアンスが自動車メーカー世界トップになることを目指している。しかも、ゴーン氏は徹底した収益至上主義を掲げる。それだけに生産・販売をどんどん増やす一方で、人員増は必要最低限に抑える政策がとられ、これによるしわ寄せは生産の現場に集中するという構図だ。
超高額な役員報酬に対する不満
さらに現場には、超高額な日産の役員報酬に対する不満もあるという。ルノーや三菱自動車分を除く、日産だけで報酬が年間10億円を超えるゴーン氏を筆頭に、日産の役員報酬は総じて他の国内自動車メーカーと比べても高額だ。株主総会の時期に役員の高額報酬のニュースを聞くたびに「いやになる」と愚痴をこぼす日産の社員は少なくない。ゴーン氏は「優秀な人材を引き止めるためには必要」と言い切るが、日々作業に追われる現場の作業員としては到底、納得できるものではない。
あるジャーナリストはこう指摘する。
「管理職が資格を持つ作業員だけが完成検査しろと言いながらも、生産ペースが遅れると怒る。現場が『うまくバレないように(不正行為を)やれ』ということだと理解しても仕方がないのではないか」
実際、西川社長も「下(係長や作業員)から上(管理職)に意見をフィードバックしにくいことは、あるのであろうと認識している」と話す。
日産は相次ぐ不祥事の発覚に危機感を強めており、工場ごとに完成検査を集約するための設備を整備するとともに、完成検査の場所に有資格者しか入れない仕組みにするなど、再発防止策を徹底する方針。それまでの期間、最低でも2週間、国内向けモデルの生産と出荷を停止する。
ただ、いくら不正防止の制度をつくろうと、超高額な報酬を手に世界トップの自動車メーカーになることだけに向けてひた走る日産の上層部が、負担を強いられる生産現場のことを理解しなければ、不正の芽を完全に摘むことはできない。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)