競争が激化するアスレジャー市場
ただ、アスレジャー市場には続々と企業が参入し、競争が激化し始めている。
ユニクロが3月に新宿高島屋(東京・渋谷)でアスレジャーの新業態「ユニクロムーブ」をオープンした。「日常を快適に、アクティブに」をコンセプトとし、さまざまな「ムーブ(動き)」に焦点を当てたファッションを提案するという。高機能スポーツウェアとカジュアルウェアを取り揃え、タウンユースとしても利用できることを訴求している。
ユニクロムーブが入居している新宿高島屋8階は、フロア全体がアスレジャー需要に対応した店舗構成となっている。ユニクロムーブのほか、アディダスやプーマ、ポロスポーツといったアスレジャーブランドが軒を連ねている。ラコステは3月にアスレジャーをテーマにした店舗を同フロアでオープンした。ラコステのメンズ・レディースの商品に加え、「ラコステスポーツ」も加え、アスレジャー需要を取り込みにかかっている。
ABCマートは、アスレジャーの新業態を投入することで、競合に後れを取らないようにしたい考えだ。また、急ブレーキがかかった業績のテコ入れを図りたい思惑もありそうだ。というのも、同社の靴中心の店舗が国内で飽和状態に近づいている可能性があるからだ。
同社はこれまでハイペースで出店を重ね、17年2月末時点で全国に906店を展開するまで成長した。しかし、1000店体制が間近に迫っているいま、十分な収益を確保できる出店の余地がなくなってきているとみられる。同社の既存店ベースと全店ベースの両方の売上高の伸びが鈍化していることから、それは明らかだ。
同社の既存店(開店から一定期間の営業を経た店舗)の売上高は、16年2月期までの3年はそれぞれの期において前年比5%以上の大きな伸びを見せていた。しかし、17年2月期はわずか0.9%の増加にとどまった。これも気になるところだが、より深刻なのは全店ベースのほうだ。
全店(開店まもない店舗も含めたすべての店舗)の売上高は、16年2月期までは長らく前年比8%以上の成長を見せていた。しかし、17年2月期は前期末から約7%にあたる57店が純増しているにもかかわらず、売上高は3.1%の増加にとどまった。微増に終わったひとつの可能性として、十分な収益が見込める立地での出店が困難だったことが考えられる。飽和化の影響があったのではないか。
ABCマートには「国内1000店の壁」が立ちはだかる。外食産業やコンビニエンスストア、ドラッグストアといった日常的に消費者が利用する業態であれば1000店以上を展開する企業も少なくないが、耐久消費財や趣味品を扱う業態で1000店を超えているのは、アパレルのしまむらや家電量販店のエディオン、ホームセンターのコメリなど、一部に限られている。
同じ靴専門店では、「東京靴流通センター」などを展開するチヨダが約1100店の靴販売店を展開し、国内1000店の壁を超えているが、長らく1100店前後で推移し店舗数は伸び悩んでいる。1000店の壁を破ったものの、飽和化などの影響で出店余地が厳しくなっている可能性が高い。
ABCマートは1000店に近づき、成長に陰りが出ている。出店に適した立地が少なくなったり、自社競合が発生したりして、効率的な出店が困難になっているのではないか。
ただ、収益の成長に急ブレーキがかかったものの、利益率は依然として高い状態を維持している。17年2月期の売上高営業利益率は前年の17.4%から微増の17.5%で、近年は以前のように20%を超えることはないが、それでも競合他社と比べて非常に高い数値を維持している。最終的な儲けの割合を示す売上高純利益率は11.9%で前年比0.9ポイントの増加だ。これも非常に高い数値といえる。
ABCマートの業績には急ブレーキがかかったが、競争力が完全に落ちたとまでは言い切ることができない。出店ペースも落ちていない。とはいえ、油断していては足元をすくわれかねない。アスレジャーの新業態を育てることで、リスクの分散化と業績のテコ入れを図りたいのだろう。いずれにしても、アスレジャーの行方と国内1000店の壁を突破できるかが当面の焦点となりそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。