11月5日、「船橋珈琲フェスティバル」というイベントが行われた。千葉県の船橋駅に直結した東武百貨店船橋店の催事場を使い、1日限定で実施されたものだ。
イベントの目玉は大きく2つだった。ひとつは、「各店イチオシ珈琲が飲み放題!」と掲げたコーヒーパスポート(前売り1200円、当日1500円)を購入すると、参加した8店舗のコーヒーが飲めること。もうひとつは「世界チャンピオンが教える『美味しいコーヒーの淹れ方教室』」という参加無料のものだ。コーヒーの抽出技術を競う「ワールドブリュワーズカップ(WBrC)」で2016年に優勝した粕谷哲氏が3回(各1時間)、登壇した。
筆者は粕谷氏に誘われて視察したが、会場は予想以上に大盛況だった。特に「淹れ方教室」は用意した座席が足りずに立ち見客も多く、粕谷氏が自己紹介で昨年のWBrC大会で優勝したことを話すと、会場の女性から「へぇー」と感心した声が上がった。一般の来場者にも話を聞いたが、船橋駅直結の百貨店という場所柄、船橋市民や近隣の千葉県民が多かったようだ。
今回は「船橋」を題材に、コーヒーと地域おこしを考えてみたい。
人口は多いが「コーヒー」の実績は低い
船橋市の人口は約63万人で、政令指定都市でない中核都市では最大だ。少子化が続き、全国で人口が減る都市も目立つなか、6年間で約2万人増えた。東京23区に通勤・通学する“船橋都民”も多い。一方、船橋市のある千葉県は人口が約625万人で、東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、埼玉県に次いで6位だ。こちらも人口は増えている。
ただし、千葉県はカフェの利用やコーヒーの消費が盛んな地域ではない。「喫茶店におカネを使う都市」では千葉市が15位、前回調査は17位だった(総務省統計局「家計調査」における1世帯当たりの年間支出額。都道府県庁所在地・政令指定都市における2013~15年の平均)。コーヒーの消費金額も21位で、金額は全国平均を少し上回る程度だ。
メディアが「豪華なモーニングサービス」を報道する愛知県や岐阜県の喫茶店のような話題性もなく、日本のコーヒーやカフェの生活文化史において、千葉県や船橋市が特筆する活動を示した歴史も、筆者が知る限りない。逆に、そうした地域だからこそ興味を抱いたのだ。
市場全体では追い風が吹く。喫茶業界は市場規模が1兆611億円(14年)から1兆1270億円(15年)に拡大した再成長産業だ(一般社団法人日本フードサービス協会調べ)。「コンビニコーヒーの大ブレイクが導火線になった」という指摘もある。