IoTは60年前に登場していた
今年の「『現代用語の基礎知識』選 2017ユーキャン新語・流行語大賞」の候補には入らなかったが、「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)は間違いなく、今年流行ったビジネス用語だ。ビッグデータ、AI(Artificial Intelligence:人工知能)の2語とワンセットで「第4次産業革命」などと称されるが、その歴史をさかのぼると現在から60年前、1950年代後半に登場したビルの自動ドアにたどり着く。最新の仕掛けというわけではない。
一定の温度で起動するエアコンや火災報知器、暗くなると点灯する自動照明、生体情報で開錠するドアなど、シンプルなIoTは街中に溢れている。いわゆる「センシング」による自動化だ。加速、振動、傾斜、高低、衝撃、湿度、音、硬柔、味など、センサーは人の五味五感のほとんどをカバーしている。
一方、「ユビキタス」という言葉がインターネットが普及する以前、1980年代から一部の研究者の間で使われていた。当初は概念に近かったが、21世紀に入って登場したRFID(Radio Frequency IDentification:通信機能を備えた半導体チップ)でにわかに現実味を帯びた。「Suica」や携帯電話に採用されたソニーのFeliCaチップ(2001年11月)、日立製作所が開発した「ミューチップ」(02年10月)がそれだ。これによってハードウェア同士が無線で信号をやり取りする「M2M」(Machine to Machine)がスタートした。
7、8年前、機械や装置に組み込んだマイクロプロセッサ(MPU)がインターネットでつながるようになって、第3フェーズに突入した。それまではON/OFF、0/1の一方向のプロセス制御機能だったが、双方向性を備え、クラウドで多種多様なデータを取得できるようになった。
少子高齢社会の救世主
日本を代表する重機メーカーであるコマツの「KOMTRAX」(コムトラックス)は、IoTを先取りしたシステムとして世界的に知られている。重機に内蔵したMPUがGPSと連動して、世界のどこで、どのように稼働しているかがわかる。そもそもは、リース物件の所在を追跡するのが目的だったが、それが発展して、燃費性能ばかりか海外諸国の景況まで分析できるという。鉱山や工事現場で重機が活発に動くのは景気が良い証拠、というわけだ。
半面、懸念もある。ショッピング・モールやターミナルの通路などに設置された大型液晶ディスプレイ(デジタル・サイネージ)が、その前を通る人のスマートフォンから情報を読み取ったり、監視カメラの映像を顔認証技術で分析してマーケティング情報として使うのは、情報の不正取得に相当する。技術的に可能でも、モラルとして許されるか、という新しい課題が生まれている。端末とネットワークを狙う不正アクセスやウイルス・プログラムのリスクも増す。