ソフトバンクグループの株価は10月31日に急落した。終値は前日の1万430円から483円(4.6%)安の9947円へ下落。その後も1万円を下回ったままで推移している。ソフトバンクが傘下の米携帯電話4位のスプリントと、同3位のTモバイルUSとの経営統合を断念する方針を決めたことに投資家は落胆したのだ。
スプリントの株価は、11月6日の取引で一時14%も急落。TモバイルUSとの経営統合に向けた交渉が打ち切られたことで、窮地を打開するのに、もはや大型合併を当てにできなくなったからだ。整備が遅れている通信網への投資、380億ドル(約4兆2000億円)という重い負担に自力で耐えていかなければならない。
ソフトバンクの孫正義社長は、スプリントとTモバイルUSの合併を、Tモバイル親会社の独テレコムに申し入れていた。交渉は数カ月に及んだが、破談に至った交渉の舞台裏を11月25日付日本経済新聞は、こう報じた。
「10月27日午前、東京・汐留のソフトバンク本社が入るビル26階の会議室。孫氏は取締役に『ドイツのテレコムは(Tモバイルの)経営権を手放すつもりはない。このままでは交渉は破談する』と語りかけた。
これに対し、(ファーストリテイリング会長兼社長の)柳井(正)氏や半導体設計のアーム・ホールディングスのサイモン・シガーズ最高経営責任者(CEO)ら出席者のほぼ全員が『スプリントの経営権を手放すべきではない』と主張、数カ月にわたる交渉に事実上終止符が打たれた」
この報道には説明が要る。今回の統合案では、テレコムが株式の過半を握り、新会社はソフトバンクの関連会社になる見通しだった。
ソフトバンクは新会社の利益を「持ち分法投資利益」として引き続き得るほか、スプリントの約4兆円の有利子負債が連結対象から外れることから財務面の改善を見込んでいた。
だが、テレコムは単独で経営権を獲得できなければ統合案をのめないと主張。柳井氏ら社外取締役による「スプリントの経営権を手放してまでTモバイルUSと合併させるべきではない」との意見に押し切られて、統合を断念したということだ。
孫氏の目的は、巨額の有利子負債を抱えるスプリントを連結対象から切り離すことにあった。身軽になって10兆円の投資ファンドに全力投球するためだ。
ところが、スプリントとTモバイルUSの経営統合は破談した。ソフトバンクは15兆円近くの連結有利子負債を抱えたままだ。孫氏には大きな誤算となった。