役職定年とは何か
筆者は1987年~2002年まで日立製作所に勤務し、03~08年まで同志社大学で経営学の教員として勤務した。その後、自営業者となり、新聞や雑誌の記事を書くジャーナリスト、およびコンサルタントを主な仕事としている。自営業者であるため、ボーナスもなく失業保険ももらうことはできず、もちろん退職金なども無縁だ。加入している年金は国民年金であり、老後の生活には一抹の不安がある。
ただし、会社員にはない良い点が一つだけある。筆者は現在56歳であるが、60歳の定年も、55歳で適用されることが多い役職定年もないということである。つまり、仕事があり、自分に働く気力さえあれば、いつまでも現役を続けることができる。
一方、筆者と同年齢の日立や東芝などの大企業の社員の多くが役職定年となり、悩んでいるという話を頻繁に聞くようになった。役職定年とは、55歳頃の部課長などに適用される。すると、それまでのポストを外され、部下もいなくなり、仕事内容もメインストリームから外れ、役職手当もなくなり、その結果、給料が大きく減額される。場合によっては、今まで部下だった者が上司になるというような屈辱的なケースもあるらしい。
自分の能力が低下し、実績が挙げられなくなったのならやむを得ないが、単に年齢が55歳になったというだけでこうした扱いを受けるというのは、耐えがたいことのように思う。もし、筆者が現在も日立に在籍していて、そのような目に遭ったら、もっと待遇や報酬の良い企業を探して、さっさと転職するに違いない。
これに対して、「55歳という年齢を考えると転職は難しいのではないか」という意見もあるだろう。しかし現在、半導体技術者にとっては、それが当てはまらない。半導体技術者には現在、千載一遇のチャンスが到来しており、決意さえ固めれば現在の給料の数倍~数十倍の企業に転職することが可能となっているのである。
その企業とは、中国の半導体企業である。本稿ではまず、中国で半導体の巨大工場の建設が複数計画されている実態を述べる。その結果、中国には膨大な数の半導体技術者が必要であり、その待遇が日本の数倍~数十倍になるケースが多々あることを説明する。最後に、役職定年という時代に合わない制度を放置すると、半導体をはじめ日本の製造業の競争力を弱体化させるであろうという推論を述べる。結論を先取りすると、役職定年という制度は即刻廃止するべきであると考える。