東京ではあまり知られていなくても、地元でライブをやれば1万人を集めることができるような“住みます芸人”もいるという。さらに活動は地元での芸能活動だけでなく、お祭りの手伝いから雪かきまで地元に貢献できることを考えて取り組んできたという。地域への社会貢献から始めていくということから、この事業は当初、全然儲からなかった。それでも企業などへのアプローチを続けていくと、黒字化に転じていったという。
「スタートから7年間、47都道府県に派遣し、現在は121人の住みます芸人が活躍し、これまでに700以上の地域活性化事業を実施してきました」(泉氏)
また3年前からは日本だけでなく、タイやインドネシアなど6つの国やエリアで“住みます芸人”が活動している。
日本、アジアに貢献
こうした吉本の取り組みに大きな関心を示したのが経済学者で実業家のユヌス氏だった。ユヌス氏はバングラデシュの首都ダッカでグラミン銀行を設立。「グラミン」とは「村」という単語に由来し、ユヌス氏は貧困層の農民や個人事業者に低金利の融資を行い支えることで貧困から脱出させる、「マイクロ・クレジット」を生み出した立志伝中の人物。脱貧困に向けて社会インフラの整備やベンチャー育成のためにインフラ、通信、エネルギー事業など、さまざまな事業に対しても出資し、事業全体は「グラミンファミリー」と呼ばれている。そうした取り組みが評価され、ノーベル平和賞を受賞した。
「小林ゆか氏が昨年12月、大崎社長にユヌス氏を紹介したのがきっかけでした。ユヌス氏も吉本のやってきたエリアプロジェクトに非常に関心を持ち、事業提携することになったのです」(吉本広報担当者)
そこで誕生したのがyySAだ。同社の事業は、各地で活動する“住みます芸人”たちとベンチャー企業に手を組ませ、地域の課題などを解決していくというものだ。さらに「ユヌス・ソーシャルビジネス」を育成・支援する企業に資金提供するために、「yySAファンド」を3月に設立したという。すでに“住みます芸人”たちからは50以上の課題が上がってきているという。そのなかで特に多かったのが「高齢化問題」「商店街などの過疎化問題」「人手不足問題」で、提携しているスタートアップ企業からさまざまな提案があったという。
「吉本はこれまで笑いの力で地域の魅力発信、観光PR、地域雇用の増加など地域活性化に取り組んできましたが、yySAをスタートすることによって今後は地域だけでなく、社会問題の解決事業を行って、これまで以上に地域に寄り添って日本、アジアのお役に立っていきたいと思います」(泉氏)
「笑い」を起爆剤にした吉本興業の多角化経営と社会貢献。世界でもおそらく初めてであろう試みに、どんな成果が期待できるのか。大いに注目したい。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)