また、今回のデータ不正流出が発覚するまで、私たちはネット企業がデータを収集し、販売することの社会的なインパクトに無関心だったと考えられる。フェイスブックは、データの活用がもたらす潜在的な影響に米国内外の社会が十分な注意を払ってこなかった状況につけ込み、SNS市場での先行者利得を確保し、その地位を築いたといえる。
米国と異なり、中国はSNSをはじめとするネット空間を政府が管理している。それは、ネット企業の影響力を理解しているからだ。2010年以降の中東・北アフリカ地域での民主化運動(アラブの春)では、人々がSNSを使って団結し、チュニジアをはじめとする独裁政権が崩壊した。そうした動きを中国は恐れている。米国の事情は異なるが、ロシアなどからのサイバー攻撃を防ぐために、データ管理に関する規制、法律の策定が急がれるのは避けて通れないだろう。
揺らぐデジタル・マーケティングのビジネス
フェイスブックの売り上げの99%が、広告関連からもたらされている。同社はSNSの機能を拡張してユーザーを増やし、それを広告収入につなげてきた。ユーザーの満足度を高めると同時に、広告主からの支持を獲得し続けることが難しくなると、フェイスブックが成長を続けることは難しくなるだろう。
データの利用に関する規制などが策定されるに従い、個々人の好みに合ったネット広告を打ち出すことは、現在に比べると難しくなることが想定される。それは、フェイスブックの収益を悪化させる要因だ。加えて、米国では一部の政治家が、ネット企業の収益源となってきたデジタル・マーケティング(ネット上での、企業の商品やサービスのプロモーション)に対する慎重な考えを示し始めている。こうした考えがどのように規制などに反映されていくかはわからないが、従来に比べ、IT関連企業の経営リスクが意識されやすくなっていることは確かだ。
実際、ここ1カ月ほどハイテク銘柄が多く上場する米国のナスダック市場全体の平均的な騰落率や、株価の水準を示すナスダック総合指数は軟調に推移している。その背景には、今後の規制強化などによってフェイスブックだけでなく、ITハイテク企業全体の成長性が下押しされるとの懸念がある。フェイスブック以外にも、ツイッター、ネットフリックス、ユーチューブなど、コミュニケーションのサービスや動画などのコンテンツを充実させてユーザーを増やし、デジタル・マーケティングのプラットフォームとして成長してきたケースは多い。