衣料品通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイは4月27日、初代採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」の生産に失敗し、約40億円の特別損失を2018年3月期の連結決算で計上したと発表した。
同社が鳴り物入りで打ち出した採寸用ボディースーツ。初代のものは、採寸センサーを内蔵したトップスとボトムスが上下セットになったスーツで、着用するだけで身体1万5000カ所のサイズを瞬時に計測し、計測したデータを基に同社のプライベートブランド「ゾゾ」でジャストフィットの服を生産することができるというシロモノだった。同スーツはニュージーランドのソフトセンサー開発会社、ストレッチセンスと共同開発した。
同スーツを発表したのは昨年11月。無料で配布するということもあって注文が殺到したといい、一部を除き発送が遅延していた。だが同社は4月27日、新型のスーツを新たに開発し、以後は新スーツを発送すると発表した。
新スーツは全身に300~400個ほどのドットマーカーがプリントされており、スマートフォンで全身を360度撮影してドットマーカーを読み取ることで採寸する仕様となっている。センサーを必要としないので低コストで生産でき、生産を早めることができるという。これにより配送遅延を解消し、今年度中に最大1000万着を無料配布する考えだ。
新スーツを採用することになったため、初代スーツがらみの特別損失が発生することとなった。今後の利用が見込めない初代スーツの製造のための設備投資の減損損失として14億8600万円、初代スーツの製造のための集積回路などの部材の棚卸資産評価損として2億6300万円、ストレッチセンス社の業績が当初計画を下回りそうなことから投資有価証券評価損として18億4800万円、ストレッチセンス社に支払い済みの前渡金があるため前渡金評価損として6億6300万円を計上した。
一連の特別損失の合計は約40億円に上り、経常利益の約13%が吹き飛んだかたちだ。新スーツのほうが低コストということで、中長期的には損失を十分回収できる計算になるだろうが、慎重に事を進めていれば発生しなかった損失なので高い授業料になったといえるだろう。
好調な業績が慢心を生んだのだろうか。スタートトゥデイの18年3月期の連結決算は、売上高が前期比28.8%増の984億円、最終的な儲けを示す純利益は18.3%増の201億円で、大幅な増収増益だった。
財務内容は良好だ。1年以内の収支倍率を表す流動比率は202.9%と極めて高い。1年以内に現金化できる流動資産は552億円にもなる。そのため、同社にしてみれば「たかが40億円」なのかもしれない。
しかし、決して楽観視していられる状況ではない。主力事業であるゾゾタウンの購入者数の伸びが鈍化しているためだ。
18年3月期の購入者数は前年比14.2%増の722万人だった。2桁の伸びを見せているので決して悪いわけではないが、16年3月期が25.9%増、17年3月期が41.2%増だったことを考えると失速したといっていいだろう。
ライバル各社の「ゾゾタウン包囲網」が狭まる
ゾゾタウンを追撃するべく、ライバルも攻勢を強めている。
アマゾンジャパンは3月15日、ファッション専用の撮影スタジオを東京・品川に開設したと発表。見栄えの良い写真や画像を撮影することで衣料品の販売を強化する考えだ。同スタジオは延べ床面積が7500平方メートルとアマゾンで最大の撮影スタジオという。スチール撮影ブースを11、動画撮影ブースを5つも設けたほか、モデルにヘアメイクを施すスペースなども備えている。
現在「アマゾンファッション」では、数千のブランドと数千万点のアイテムを取り扱っているという。17年には新たに1000を超えるブランドの取り扱いを始めた。ファッションはアマゾンが現在注力している分野のひとつといえるだろう。先行しているゾゾタウンを追撃する体制が整いつつある。
楽天も大きな脅威となりそうだ。5月2日付日本経済新聞が「楽天がファッション分野のネット通販で伊藤忠商事と提携する調整をしていることが明らかになった」と報じた。
同記事によると「年内にも共同出資会社を設立する見込みで、伊藤忠が抱えるアパレルブランドを楽天経由で販売したり、物流も共同で手がけたりする見通し」という。
伊藤忠は繊維ビジネスが祖業だ。1970年代にはブランドファッションの輸入を始め、やがて製造した衣料品にブランドを付して販売を行うライセンスビジネスを行うようになる。2000年代にはブランドへの直接投資を行うようになり、数々の世界的ブランドの買収や資本参加を行っていった。
こうしたことから、伊藤忠はファッションビジネスに造詣が深いことがわかる。素材の提案から商品企画、生産、物流まで一貫して支援できる体制を整えているのだ。楽天と伊藤忠が組むことで、ゾゾタウンにはない新たなファッションビジネスを生み出す可能性を秘めているといえるだろう。
新たなファッション通販サイトも生まれている。三井不動産は昨年11月、衣料品が主体のネット通販サイト「Mitsui Shopping Park &mall(アンドモール)」を開設した。同社が運営する商業施設「ららぽーと」などに入居するユナイテッドアローズやシップスなどのブランドが参画している。
同サイトでは実店舗のスタッフやファッションのインフルエンサーが考えた服のコーディネートを提案するコーナーを設けた。提案された服を実店舗で試すことができ、また実店舗の在庫を確認することができるなど、実店舗と連携したサイトになっているのが特徴だ。
実店舗が主戦場のアパレル企業がネット通販に力を入れ始めていることもゾゾタウンの脅威といえるだろう。たとえば、ユニクロを運営するファーストリテイリングは将来的に、ネット通販の売上比率を30%に拡大する方針を示しており、ネット通販を担う巨大な物流センターを16年4月に東京・有明で稼働させたり、ネット通販で購入した商品を受け取れるコンビニの数を増やすなど、ネット通販の売り上げを拡大するための施策を次々と打ち出している。こういった動きがアパレル各社で広がっているのだ。
ファッション分野のネット通販市場ではゾゾタウンが先行しているが、競合各社も市場の取り込みに躍起だ。ゾゾタウンに対する包囲網は確実に狭まっているといえるだろう。業績好調のスタートトゥデイといえども、うかうかしてはいられない。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)