北は新函館北斗から南は鹿児島中央までと、いまや新幹線のネットワークは広大だ。2018年4月1日現在、東海道、山陽、東北、上越、北陸、九州、北海道のフル規格の各新幹線が2997.1キロメートル、ミニ新幹線の山形、秋田の両新幹線が275.9キロメートルと、合わせて3273.0キロメートルで営業を行っている。
これらのほか、在来線として扱われているJR西日本の博多南線8.5キロメートル、そしてJR東日本上越線越後湯沢-ガーラ湯沢間1.8キロメートルも実質的にはフル規格の新幹線なので、全国の新幹線のネットワークは合わせて3283.3キロメートルだ。JR四国全線は855.2キロメートル、JR九州全線は九州新幹線を除いて1984.1キロメートルで合計2839.3キロメートルであるから、いかに新幹線網が大きなものであるかがわかるであろう。
さて、3283.3キロメートルもの新幹線網には、朝5時40分に新庄駅を出発する山形新幹線の「つばさ122号」に始まり、深夜23時59分に富山駅に到着する北陸新幹線の「つるぎ736号」まで、実に多くの列車が走り回っている。その数は平日に毎日運転されているものだけで883本だ。つまり、18時間19分間に平均して1分14秒間隔で列車がやって来ることを意味する。複数の新幹線に乗り入れる場合は重複分を省き、2本の列車を一緒に連結した分は1本と数え、博多南線、上越線越後湯沢-ガーラ湯沢間の列車を除いてこの数値だ。
しかも、これらのほかに日々多数の季節列車、臨時列車が運転され、2016年度の実績では年間4億2000万人あまり、1日当たりで115万人あまりが利用したという。新幹線は鉄道の一形態にすぎないものの、もはや独立した交通機関といってよいかもしれない。
今回はそれぞれの新幹線を愛称別に列車の本数を見ていこう。数字ばかりで恐縮ながら、興味深い列車を探っていきたい。
東海道新幹線(東京-新大阪間、JR東海)
到達時間の短い順に「のぞみ」「ひかり」「こだま」と設定されている東海道新幹線では、新大阪方面の下りが151本、東京方面の上りが157本の計308本が平日に毎日運転されている。愛称別に多い順に並べると、「のぞみ」は下り78本、上り81本の計159本で全体に占める比率は52パーセント。以下、「こだま」が下り40本、上り44本の計84本、「ひかり」は下り33本、上り32本の計65本だ。
数ある新幹線の愛称のなかで最も列車の本数が多いのは「のぞみ」である。運転区間別に見ると、東京-博多間が下り30本、上り32本の計62本と最多で、次点が東京-新大阪間の下り27本、上り26本の計53本だ。東海道新幹線の利用者のうち、結構な数の人たちがいま挙げたどちらかの運転区間の「のぞみ」に乗ったのではないであろうか。
「のぞみ」のなかで下り、上り合わせて1本しか存在しない運転区間となる列車がいくつかある。品川6時発の博多行きの99号、西明石6時発の東京行き100号、名古屋6時41分発の東京行き92号だ。
いま挙げた3本のうち、92号は「のぞみ」のなかで最も営業距離が短い。この92号は2018年3月17日のダイヤ改正前まで268号、その前は288号、298号と、2009年3月14日のダイヤ改正で登場以来、頻繁に号数を変えてきた。新幹線の号数は運行区間ごとに3桁までの数字が割り当てられており、下り列車が奇数、上り列車が偶数という大原則のもと、基本的には朝早く出発する列車から若い番号が付けられる。
しかし、号数は一種のコード番号のようなもので規則性のない号数も多い。92号はその他の運転区間を意味する90番台の上りの一番早い列車と考えられるが、以前の号数の意味は不明だ。次に改められるとしたら何号となるのであろうか。
山陽新幹線(新大阪-博多間、JR西日本)
東海道、九州の両新幹線の列車が乗り入れて来るため、愛称の数が6種類と多い。下り128本、上り125本の計252本の列車が走るなか、東海道新幹線に乗り入れる列車は下り65本、上り66本の計131本、九州新幹線に乗り入れる列車は下り25本、上り24本の計49本、しめて上下90本ずつの180本と全体の71パーセントにも達する。
愛称と本数とを停車駅の少ない順に挙げると、東海道新幹線直通の「のぞみ」が下り51本、上り54本の計105本、そして九州新幹線直通の「みずほ」が上下6本ずつの計12本だ。次いで山陽新幹線だけと東海道新幹線直通の「ひかり」が下り16本、上り15本の計31本、そして九州新幹線直通の「さくら」が下り19本、上り17本の計36本となる。各駅停車は山陽新幹線だけの「こだま」が下り36本、上り32本の計68本、そして九州新幹線直通の「つばめ」が上り1本だけの計1本だ。
「こだま」のうち、新大阪-博多間と山陽新幹線を走り通す下り8本、上り10本の計18本の列車の到達時間が極端に異なる点も興味深い。何しろ最短が新大阪行きの762号で4時間、最長が同じく748号で5時間14分と1時間14分もの開きが生じているからだ。最も時間を要する748号、そして5時間13分と1分短いだけの742号、744号、746号の計4本は途中駅での待避または通過待ちが多いうえにその際の停車時間も長い。
748号を例に挙げると、厚狭駅で16分、新山口、徳山、福山の各駅で5分ずつ、東広島駅で8分、新尾道駅で11分、新倉敷駅で3分、岡山駅で26分、相生駅で15分、姫路駅で14分それぞれ止まっている。その他の駅ではおおむね1分程度停車しており、すべて合わせると博多から新大阪までの間に1時間54分も駅に止まっているのだ。
いっぽう、到達時間が最短の762号は徳山駅で3分、広島、福山の両駅で7分ずつ、新尾道駅で6分という停車時間が目立つだけ。その他の駅を含めた停車時間の合計は32分と、748号と比べて1時間22分も少ない。
九州新幹線(博多-鹿児島中央間、JR九州)
下り59本、上り58本の計117本が運転されている。途中、熊本駅にしか停車しない「みずほ」が上下6本ずつ計12本、主要駅に停車する「さくら」が下り26本、上り24本の計50本、各駅に停車する「つばめ」が下り27本、上り28本の計55本という内訳だ。
九州新幹線の新鳥栖駅と久留米駅との間の距離はわずか7.1キロメートルと、新幹線では東京-上野間の3.6キロメートルに次いで短い。九州新幹線を建設するに当たり、当初は駅をどちらかひとつだけ設置しようと考えられたが、都市の規模や乗換の便といった要素を検討した結果、1駅に絞ることができず、結局2駅設置したのだという。
ここで注目したいのは主要駅に停車する「さくら」である。全列車とも新鳥栖、久留米の両駅に止まっているのだ。両駅を含む九州新幹線博多-熊本間が開業した2011年3月12日の時点では、多くの「さくら」は新鳥栖駅または久留米駅のどちらかにしか停車していなかった。しかし、停車駅がわかりづらく、降りそびれてしまったという声が利用者から多数寄せられ、2014年3月15日のダイヤ改正ですべての「さくら」は新鳥栖、久留米の両駅に停車することとなった。
同様の例は東海道新幹線の品川、新横浜の両駅でのケースでも当てはまる。2008年3月15日のダイヤ改正ですべての「のぞみ」が両駅に停車するまではどちらかひとつに停車していたが、やはりわかりづらいために両駅に停車となった。
東北新幹線(東京-新青森間、JR東日本)
東北新幹線には北海道・山形・秋田新幹線に乗り入れる列車を含めて下り91本、上り90本の計181本の列車が運転されている。北海道新幹線にも乗り入れる列車は到達時間の短い順に「はやぶさ」が下り27本、上り28本の計55本、次いで「はやて」が下り2本、上り1本の計5本だ。東北新幹線だけを走る列車は営業距離の長い順に「やまびこ」が下り45本、上り43本の計88本、「なすの」が下り16本、上り17本の33本である。
山形新幹線に乗り入れるのは「つばさ」だ。上下16本ずつ計32本のうち、上下15本ずつ計30本が東京-福島間で「やまびこ」と連結される。いっぽう、秋田新幹線に乗り入れるのは「こまち」。上下16本ずつ32本が運転されるなか、全列車が東京-盛岡間で「はやぶさ」と連結される。東北新幹線の列車の本数には、「やまびこ」「はやぶさ」と一緒に連結される「つばさ」「こまち」の本数は数えていない。
注目の列車は「はやて」だ。東北新幹線では3本、北海道新幹線だけを行く上下1本ずつ計2本を含めても5本しか存在せず、新幹線の列車の愛称のなかで本数が最も少ない。なかでも東京-盛岡間に運転される列車は東京7時16分発の119号盛岡行きただ1本だけである。
ちなみにこの119号の東京-仙台間の停車駅は上野、大宮の両駅と、大多数の「はやぶさ」と変わりはない。ところが到達時間は119号が1時間41分ですぐ後の東京7時36分発の「はやぶさ3号」が1時間34分と、119号は7分遅くなっている。実は最高速度に違いがあり、「はやて」は時速275キロメートル、「はやぶさ」は時速320キロメートルなのだ。特急料金も異なり、東京-仙台間では通常期に「はやて」が4950円、「はやぶさ」が5260円と「はやて」のほうが310円安くなっている。7分遅い程度ならば「はやて」のほうがお得だとも言えるが、何しろ本数が少ないので利用しづらい。
北海道新幹線(新青森-新函館北斗間、JR北海道)
「はやぶさ」が上下11本ずつ計22本、「はやて」が上下2本ずつ計4本、合わせて上下13本ずつ計26本と、フル規格の新幹線のなかでは最も列車の本数が少ない。なお、「はやぶさ」中、下り9本、上り10本の計19本は東京-盛岡間で秋田新幹線の「こまち」と一緒に連結されている。
東北新幹線の項でも記したとおり、「はやぶさ」と「はやて」との相違点は最高速度だ。ところが、各駅停車の「はやて」と同様の停車パターンの「はやぶさ」とを比べるとどちらも新青森-新函館北斗間を1時間06分ほどで結んでおり、到達時間に差はない。実は北海道新幹線での最高速度は両者とも時速260キロメートルで、東北新幹線の大宮-盛岡間を時速320キロメートルで走っているかどうかで愛称が決まるのだ。北海道新幹線を走る「はやて」はすべて大宮-盛岡間では運転されていないので、必然的に「はやぶさ」を名乗ることはできない。とはいえ、「はやぶさ」に統一しても差し障りはないと考えるのは筆者だけであろうか。
山形新幹線(福島-新庄間、JR東日本)
下り17本、上り16本の「つばさ」のうち、上下15本ずつ計30本は東京-福島間で東北新幹線の「やまびこ」と一緒に連結される。残る下り2本、上り1本の計3本は単独で運転され、なかでも東京6時12分発の121号、新庄19時57分発の160号の計2本は東北新幹線内も単独で行く。
秋田新幹線(盛岡-秋田間、JR東日本)
上下16本ずつ計32本の「こまち」は全32本が東京-秋田間を走り、しかも東京-盛岡間で「はやぶさ」で連結されるという具合に均質さが際立つ。新幹線とは特段深く調べなくても利用しやすくあるべき乗り物だ。そのような観点から見ると、「こまち」のあり方は正しい。
上越新幹線(大宮-新潟間、JR東日本)
上越新幹線には大宮-高崎間で北陸新幹線の列車も乗り入れるなか、上越新幹線だけを走る列車の本数は下り40本、上り39本の計79本である。愛称は「Maxとき」「とき」「Maxたにがわ」「たにがわ」の4種類があり、「Max」と付く列車は2階建て車両が使用されるという意味だ。
「Maxとき」は上下13本ずつ計26本が東京・越後湯沢-新潟間を、「とき」は下り15本、上り14本の計19本が東京・越後湯沢・長岡-新潟間をそれぞれ結ぶ。共に東京-高崎・越後湯沢間を結ぶ「Maxたにがわ」は下り8本、上り11本の計19本、「たにがわ」は下り6本、上り4本の計10本が運転されている。なお、「Maxとき」と「Maxたにがわ」とが東京-高崎・越後湯沢間で一緒に連結される列車が下り2本、上り3本の計5本あり、重複分を差し引くと冒頭に挙げた本数となる。
上越新幹線で特異な列車は「Maxとき」と連結される5本の「Maxたにがわ」だ。2本とも越後湯沢行きの東京10時16分発の315号と東京18時52分発の341号、3本とも東京行きの高崎9時11分発の308号、高崎11時35分発の316号、高崎21時38分発の348号は、東京-高崎・越後湯沢間を16両編成で運転される「Maxとき」が高崎・越後湯沢の両駅で8両編成を切り離しまたは連結して運転することから誕生した。本来ならば東京-高崎・越後湯沢間の8両編成も「Maxとき」と名付ければすっきりするのだが、JR東日本は東京-高崎・越後湯沢間の列車の愛称を「Maxたにがわ」「たにがわ」と名付けているため、いま挙げた5本も「Maxたにがわ」となった次第だ。
北陸新幹線(高崎-金沢間、高崎-上越妙高間はJR東日本、上越妙高-金沢間はJR西日本)
北陸新幹線の列車の愛称は運転区間ごとに分けられている。大まかには東京-金沢間が「かがやき」「はくたか」、東京-長野間が「あさま」、富山-金沢間が「つるぎ」だ。「かがやき」と「はくたか」との違いは到達時間で、途中の上野(一部通過)、大宮、長野、富山の各駅に停車の「かがやき」のほうが主要駅停車の「はくたか」よりも短い。
「かがやき」は上下10本ずつ計20本、「はくたか」は下り15本、上り16本の計31本で、「はくたか」には長野-金沢間の上下1本ずつ計2本と長野-上越妙高間の上り1本とを含む。「あさま」は下り18本、上り17本が運転されており、うち下り1本の運転区間は軽井沢-長野間である。「つるぎ」の本数は下り17本、上り19本と、北陸新幹線の愛称のなかでは列車の本数が最も多い。
北陸新幹線の列車のうち、「かがやき」全列車、「はくたか」上下14本ずつの計28本、「あさま」上下17本ずつの計34本の合わせて上下41本ずつ計82本が大宮-高崎間で上越新幹線に乗り入れる。ならば大宮-高崎間では上越新幹線の列車とどちらが本数が多いのか気になるところ。上越新幹線の列車は上下38本ずつの計76本であり、北陸新幹線の列車のほうが多い。軒を貸して母屋を取られるとはまさにこのことだ。
ちなみに、上越、北陸の両新幹線の列車の多くは東京-大宮間で東北新幹線に乗り入れる。その本数は上下79本ずつの計158本。いっぽうで、東北新幹線方面と言える東北、北海道、山形、秋田の各新幹線の列車の本数は下り85本、上り86本の計171本だ。こちらは母屋を取られるまでには至っていない。
ところで、東京-大宮間で平日に毎日運転される列車の本数は下り164本、上り165本の計329本である。東海道新幹線で最も列車の本数の多い区間は新横浜-三島間で下り143本、上り150本の計293本であるから、東京-大宮間がいかにたくさんの列車でごった返しているかがわかるであろう。
なお、東海道新幹線は日々多数の臨時列車が運転されていて、上下合わせた本数は実際には少なくとも320本前後、多いときには400本を超える。要は東京-大宮間も新横浜-三島間も大都市の通勤路線並みの混み合いぶりなのだ。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)