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舘内端「クルマの危機と未来」

トヨタの燃料電池車、存亡の危機か…世界3大勢力が撤退、水素インフラも圧倒的に不足

文=舘内端/自動車評論家
トヨタの燃料電池車、存亡の危機か…世界3大勢力が撤退、水素インフラも圧倒的に不足の画像1トヨタ自動車の燃料電池車MIRAI(「Wikipedia」より/Turbo-myu-z)

燃料電池大型トラックがカリフォルニア州を走る

 トヨタ自動車燃料電池車(FCV)戦略が攻勢を強めている。今度は米国カリフォルニア州の港での大型FCトラックの実証試験である。

 世界一の排ガス規制を実施するカリフォルニア州だが、大型ディーゼルトラックが主流の港湾の大気汚染はなかなか止められない。問題を抱え頭の痛いCARB(カリフォルニア州大気資源局)は、トヨタの大型FCトラックの実証試験に期待する。

 燃料電池車といえば、水素供給ステーションがネックである。電気自動車(EV)のように電気コンセントさえあればどこでも充電できるわけではないからだ。しかも、水素ステーションを設置するには、莫大な費用がかかり、設置場所の安全管理も厳重にしなければならないなど、EVの充電ステーションに比べて苦労が多い。

 カリフォルニア州の港湾で大型FCトラックの実証試験を行うには、近くに水素ステーションが必要である。

シェルと協力

 自動車といえばガソリンスタンドが必須だ。ということで、自動車メーカーは石油メーカーに首根っこを押さえられている。自動車メーカーには気分の良いものではないが、一方の石油メーカーは自動車が増えないことには成長できず、両者は厳しい関係にある。

 しかし、世界の電動化シフトは両者の関係そのものを切断する。EVの充電器は電力会社と充電器メーカーがイニシャチブを握る。FCVは、水素製造メーカーとステーションの技術を持つ企業がイニシャチブを握る。すべての自動車が純EVとFCVになれば、石油メーカーは自動車の分野では不要になる。

 いずれにしても水素ステーションがなければ、せっかく開発したトヨタの大型FCトラックも使いものにならない。そこで、なんとシェルと協力してカリフォルニア州のロングビーチ港に水素ステーションを建設する。

 シェルとしては、いずれ販売量が激減するガソリン/軽油に替わって水素を売る技術が手に入り、トヨタとしては大型FCトラックを運行でき、CARBとしては大気汚染の改善に期待できるというわけである。ちなみにシェルとトヨタはホンダも巻き込んで、カリフォルニア州北部に水素ステーションを7カ所新設する。

揺らぐFCV開発協定

 EVもFCVも、その開発と量産化には莫大な費用と多数の研究者が必要である。そこで自動車メーカーは2つの戦略のうち、どちらかを選択することになる。とくに生産台数が年間500万台以下のクラスの自動車メーカーには厳しい選択となる。

 2つの戦略のひとつは、FCVの開発を放棄あるいは延期するものだ。これには、FCVの将来性の確かな見通しが必要だ。つまり、FCVは近い将来に普及することはないという見通しを持たなければならない。

 2つ目は、規模の大きなメーカー同士で開発を共同して行うか、小さなメーカーでFCVの技術を持っていれば、大きなメーカーにそれを売り込み、開発を続けるというものだ。

 弱ったことに、FCVを次世代車の最大の候補だと言い出したダイムラーが開発の放棄、あるいは延期に動いた。1990年代初頭に早くもFCVの試作車を発表し、「これからはFCVの時代だ」と社長自ら宣言したメーカーである。先頭ランナーが「こんなレースは続けられない」と言ったわけだから、後続ランナーは動揺する。

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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