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(撮影:World Economic Forum from Cologny,、Switzerland、2008年1月25日「Wikipedia」 より)
日産は主力小型車「マイクラ(日本車名マーチ)」の次期モデルを資本提携先の仏ルノーのパリ近郊の工場で生産すると発表した。年間8万2000台規模で、2016年に生産を開始する予定。欧州通貨危機で業績が悪化したルノーの救済措置である。
日産はインド、メキシコ、タイ、中国の4拠点でマイクラを生産。欧州、中東、アフリカ、インド向けはインド・チェンナイ近郊の工場で生産している。13年3月期のマイクラの販売台数は23万6000台。インド工場で9万台生産し、欧州向けに5万3000台を輸出した。インドの国内向けはインド工場に残して、欧州向けなどの生産をルノーの工場に移管する。
委託生産は、自社工場で生産するのに比べて原価低減の余地が限られる。新興国の自社工場に比べ生産コストが高いルノーの工場に移管することで、マイクラの採算悪化につながる。だから、これまで仏ルノーへの生産委託について「あり得ない。おとぎ話だ」(日産幹部)と一蹴していた。
日産とルノーは最良のパートナーとして支え合う関係にあると自画自賛してきた。ルノーは欧州、南米、日産は北米やアジアに生産拠点を持ち、市場を補完する面でも相性は良かった。だが、ギリシャに端を発する債務危機の影響もあり、景気停滞が続く欧州市場で販売が減少。仏ルノーは経営不振に陥った。
ルノーの12年12月期の連結決算の売上高は前年同期比3.2%減の412億7000万ユーロ(5兆1600億円=1ユーロ125円で換算)、営業利益は同33.2%減の7億2900万ユーロ(910億円)と減収減益だった。43%の株式を握る日産からの持分利益(1540億円)を含めて純利益は17億3500万ユーロ(2100億円)を計上したが、それでも前の期より18.9%の最終減益となった。
ルノーの自動車部門は営業赤字に転落した。世界の新車販売台数は、前年比6.3%減の255万台に落ち込んだ。地元フランスでは、同20%減の55万台と激減。欧州全体でも同18%減の127万台と、大きく販売台数を減らした。
このためルノーは13年1月、16年までにフランス国内の従業員の17%に当たる8000人の人員削減策を発表した。コストカッターの異名をとるゴーンCEOのリストラ提案に、労働組合は猛反発。パリ市内では大規模なデモが行われた。
「従業員のクビを切るなら、もらっている高い報酬も減らせ」「経営トップを代えろ」。ゴーンCEOを批判するシュプレヒコールがこだました。ここで、事態を重く見たフランス政府が動いた。ルノーはかっては国営企業であり、今でも政府はルノー株式の15%を保有する筆頭株主だ。
モントブール産業再生相は「ルノーの業績が悪いとき、日産がルノーを手助けするのは当然」(4月22日付日本経済新聞)と発言し、圧力をかけた。倒産しかかった日産をルノーが助けてやったのだから、今度は、日産が助ける番だ、というわけだ。
3月中旬までにルノーの労使は、国内従業員の15%に当たる7500人を16年までに削減する経営合理化策で合意した。政府が雇用維持を求めたため、人員削減は自然減を中心に実施することになった。国内工場は閉鎖せず、フランス国内での生産台数は12年の53万台から16年には71万台に増やす。このうち8万台をパートナー(=日産)からの生産で補うとした。
工場は閉鎖せず、人員削減も自然減、パートナーからの委託で生産を増やす。「満額」以上の回答だ。日産がルノーを助ける番が回ってきた、との認識である。
日本国内では天下無敵のゴーン氏だが、フランス政府には頭が上がらない。ゴーン氏は10年にマイクラの兄弟車の「クリオ」をフランス工場からトルコに全面移管する計画を発表したが、国内の生産の維持を求めるサルコジ政権(当時)に中止に追い込まれた。フランス政府の圧力で経営方針を転換したのは、今回のマイクラで2度目だ。
99年に、経営が悪化した日産をルノーが傘下に収めた。ルノーから派遣されたゴーン氏が日産の立て直しに成功した。ルノーは日産に43.4%を出資。一方、日産はルノーに15%出資している。投資としてメリットが大きかったのはルノーの方だ。
ルノーの日産への投下資本は66億ユーロ。現在、持っている日産株式の時価総額は150億ユーロ。差し引き84億ユーロのキャピタルゲイン(日産の株価上昇による利益)を得た。日産からのインカムゲイン(配当金)は累積で30億ユーロほどだ。現在の1ユーロ=130円ではじいてみると、8580億円投資して1兆4820億円の利益を得た計算だ。投資は大成功だったといえる。
さらに、日産から生産委託という追加支援を受ける。ルノーにとって日産は手放したくないカネのなる木なのである。