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24時間店員がいない古着店…アパレルの常識を覆す「ムジンノフクヤ」に若者が殺到するワケ

文=真島加代/清談社
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「ムジンノフクヤ」の外観

 多くの業界で人手不足が叫ばれている昨今、アパレル業界も例外ではない。特に店頭は販売員が足りず、長時間労働が常態化して休暇が取りづらいなど、さまざまな課題を抱えているという。そんな中、2020年8月にオープンした古着店ムジンノフクヤ」が密かに話題を集めている。24時間営業の同店は、その名の通り店員がいない無人店舗だ。

 そこで、アパレル業界の課題に一石を投じるムジンノフクヤを直撃し、オープンのきっかけや店の特徴について聞いた。

24時間無人営業の古着店

 西武新宿線の野方駅から徒歩3分ほどの場所に位置するムジンノフクヤ(東京・中野区)。大きな窓ガラスとビニールカーテンがかけられた外観は、外からも店の中をうかがうことができる。

「ムジンノフクヤには店員がいないので、外からの視認性を高めて防犯につなげています」

 そう話すのは、オーナーの平野泰敬さん。現在は平野さんが1日に一度は店を訪れて店内の清掃や防犯カメラの確認を行っているが、そのほかの時間は運営に関わる店員はいないという。

「店の広さは約8坪で、商品の価格帯は1480~4980円に設定しています。服は値段ごとに色分けされたハンガーにかかっていて、その色に該当する価格の券を購入するシステムです。以前は国内のブランド品を中心に展開していましたが、最近は海外からの輸入品を増やしたり、シーズンごとに入れ替えたりして、常に500点前後の商品を店頭に並べています」(平野さん)

 無人店舗と聞くとセルフレジなどをイメージしがちだが、同店の購入システムは至ってシンプルな印象だ。

 実は近年、若者の間で古着ブームが到来しているという向きもある。ムジンノフクヤの客層も、20代の女性が全体の7割を占めているという。

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Tシャツやアロハシャツなど分類ごとに商品が陳列されている店内

「一見メンズの古着が多いと感じるかもしれませんが、最近はメンズライクにダボッと着るのが女性の間でトレンドだそうです。なので、古着の流行に合わせて大きいサイズを強化しています。購入にあたっては着たときのサイズ感も参考になるので、試着室も設置しました」(同)

 また、24時間営業の同店には、一般的なアパレル店より“フラッと立ち寄りやすい”という特徴がある。

「緊急事態宣言が解除されている期間は、近所の飲み屋に行った人が帰宅途中に服を購入したり、仕事帰りの遅い時間に立ち寄ったりするお客さんもいるようです。24時間営業と古着屋の相性は悪くない印象ですね」(同)

 ムジンノフクヤの店内には、商品や券売機のほかに1冊のノートが置かれている。中にはさまざまなコメントが書き込まれており、客と店の“交換日記”になっていた。

「接客がないので、ノートでの交流はとても重要です。設置してみると、思った以上にみなさんが書き込んでくれて驚きました。品揃えだけでなく店の改善点に関する書き込みもあるので、運営の参考にもさせてもらっています」(同)

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ノートには「Tシャツ2枚買いました」という報告や「カーディガンがほしいです」など、さまざまなコメントが寄せられる。平野さんはその一つひとつに返事を記入しているという

 面と向かっては言えないこともノートには書き込める、という消費者心理も働いているのかもしれない。

古着特有のニーズと非接触接客の可能性

 もともとは副業で古着のネット販売をしていたという平野さん。2020年8月に実店舗となるムジンノフクヤを開店した経緯について、こう語る。

「ネット販売はどうしても価格競争になってしまうので、あまりおもしろみがないんです。しかも、既存のネットショップを利用すると運営側への手数料がかかったり、商品の発送に送料がかかったり……実店舗がないといっても、意外と出費がかさむのも気になっていました」(同)

 また、古着という商品を扱う上で“手に取って確認したい”というニーズの高さも感じていたという。

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ハンガーの色ごとに値段を記載した張り紙。店内に手作り感が漂うのもムジンノフクヤの特徴だ

「古着は一点物で商品の質にも個体差があるので、『購入前に触って確かめたい』という人も少なくありません。サイズ感を重視する人も多いので、試着のニーズも高い。何より、品質のいいものをリーズナブルに提供したかったので、人件費を抑えて“24時間営業の無人店舗にする”という方法を思いつきました」(同)

 さらに、新型コロナの影響で小売業界全体的に“非接触接客”への関心が高まっていた。そうした時代背景も後押しとなり、「非接触接客に可能性を感じた」と平野さんは振り返る。時代にマッチしたムジンノフクヤは20年8月のオープン以降、黒字が続いているという。

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店内にはアルコール消毒液も設置されている

意外と少ない?万引き被害の実態

 その一方で、万引きなど、無人店舗ならではのさまざまなリスクへの対応は気になるところ。同店では、どのような対策を行っているのだろうか。

「店内には3台の防犯カメラを設置しています。店の敷地に対して多いとは思いますが、万引きなどの犯罪リスクを下げるためには必要不可欠です。これまで2件ほどの万引き被害と、店内に生肉を置かれるというイタズラ被害がありましたが、万引きのほうは常習犯だったので、僕が店の前に張り込んで現場を押さえ、逮捕してもらいました。そうはいっても、万引き被害はごく稀。防犯カメラの映像を見ると、みなさん、ちゃんと券を購入してくれているのがわかります」(同)

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券売機の上に設置されたモニターには、さまざまな角度から録画した防犯カメラの映像が映し出されていた

 平野さんは「ムジンノフクヤはお客さんの良心のおかげで成り立っている」と話す。

「最近はコンビニの無人店舗も話題になっているので、今後も注目が高まる業態だと思います。アパレル業界でもムジンノフクヤがモデルケースになって、無人店がどんどん広がっていくとおもしろいですよね」(同)

 年内には2号店をオープンしたい、と意欲を示す平野さん。客とともに店をつくり上げていくムジンノフクヤが、アパレル業界に新風を吹き込む日も近い?

(文=真島加代/清談社)

「ムジンノフクヤ」公式HP

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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