文部科学省が毎年行っている全国学力・学習状況調査(以下、全国学力テスト)は広く知られているが、埼玉県が独自に開発した学力・学習調査(以下、埼玉学調)を行っていることはまだあまり知られていない。しかし、この調査が、今世界でも注目を集め始めているという。そこで、この調査を実施している埼玉県教育委員会に話を聞いた。
全国初、子ども一人ひとりの学力の伸びが測れる大規模調査
50m走で、7.5秒で走ることを目指して体育の授業を行った。結果、最初8.5秒だった生徒Aは最終的に7.6秒という成績を出した。一方、生徒Bは最初7.0秒だったが、最終的に7.4秒だった。この結果から、どちらの生徒に教育的効果があったと言えるだろうか。そんな問いに応える調査が埼玉学調だ。
学力調査といえば、文科省が実施している全国学力テストがあるが、埼玉学調との違いはどこにあるのだろうか。
文科省の調査は、毎年4月に小学6年生と中学3年生を対象に行われているテストで、児童の学力の状況が客観的に把握できる調査として、全国の自治体で実施されている。都道府県別の結果が公表され話題になるが、受験者は毎年変わるので、一人ひとりの児童の成績の経年変化(どれだけ学力が伸びたのか、反対に伸びなかったのか)は測れない。
一方、埼玉学調は、小学4年生から中学3年生までの児童生徒を対象に、学力の変化を継続的に把握できる調査を行っているため、一人ひとりの子どもたちがどれだけ伸びたかが把握できる点が大きく異なる。
自治体初の学力の経年変化を把握できる調査に30万人が参加
本来、教育の成果は一人ひとりの子どもをどれだけ伸ばすことができたのかを見ないと測れないはず。しかし、これまで日本ではそれを測る指標がなかったのだ。そこで、文科省から埼玉県教育委員会に出向中だった大江耕太郎氏、大根田頼尚氏が中心となって開発されたのが、埼玉学調。平成27年度から、県内公立小中学校(さいたま市を除く)の小学校4年生から中学校3年生の生徒約30万人が、毎年受検している。
特徴は、一人ひとりの学力の伸び率を測れる点だ。例えば、ある子どもが数回テストを受けて前回より高得点を挙げたとしても、たまたまそのテストが易しくて高得点が取れただけかもしれない。テストの結果を成長の証と見なすためには、それぞれの試験の難易度差を考慮する必要がある。そこで、OECD(経済協力開発機構)が実施しているPISA(国際学力到達度調査)と同じ、IRT(項目反応理論)というテスト理論を採用して、問題も難易度を揃えた。これによって、同じ子どもや学校の変化を継続的に把握できるデータが取れるという。
埼玉県教育委員会では、例えば学力が伸びた教科の授業を他の教師が参考にするなど、このデータを使って教師が互いに授業研究をして、より良い学校教育を構築する材料にしてほしいと言う。