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航空経営研究所「航空業界の“眺め”」

ボーイング、14年ぶり新型機「B797」開発で苦悩…完成時にはエアバスが市場独占の懸念も

文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学特任教授、運輸総合研究所客員研究員
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ボーイング、14年ぶり新型機「B797」開発で苦悩…完成時にはエアバスが市場独占の懸念もの画像1エアバスのA321neo(「Wikipedia」より/Tomas Del Coro)

 二大航空機メーカーとして激しくしのぎを削るボーイングエアバスの航空機の新規開発は、新型エンジン換装などの派生改良型を除くと、それぞれB787(2011年)、A350(2015年)が最後となっている。

 航空機開発には数兆円規模の開発コストを要するため、その決断には慎重にならざるを得ない。ボーイングは、比較的小型のワイドボディ機(広胴機)を開発する構想を数年前から打ち出しており、2025年の完成を目標に、すでに航空会社との協議も行い、慎重にマーケット・サーベイと技術検討を行っている。この新型機が実現すれば、「ボーイング797」と名付けられることになるのだが、さまざまな技術検討が必要なことと、大きなリスクがあることから、ボーイングもなかなか決定に踏み切れないでいる。7月のファンボロー国際航空ショーで発表されるとも噂されたが、結局それもなかった。新型機の開発には約6年が必要なため、ボーイングの決断に残された時間は少ない。

200席クラスでほぼ一人勝ちのエアバスA321neo

 ボーイングとエアバスは、旅客機製造でほぼ市場を二分し生産機数で拮抗しているが、一般論では、ボーイングはワイドボディ機(広胴機・2通路機)に強く、逆にエアバスはナローボディ機(狭胴機・単通路機)に強い。エアバスのナローボディ機A320シリーズは、LCC(格安航空会社)拡大の波にも乗って驚異的なスピードで売上を伸ばし、今年6月時点での総発注機数は1万4276機と、ライバルであるB737の1万1650機を凌駕している。

 とりわけ、A320シリーズで、胴体を延長した200席クラスで新型エンジン装備のA321neo(ネオ)の売上は非常に好調で、同クラス市場の多くを取り込んでいる。A321neoは最大240席までカバーするほか、胴体に燃料タンクを増設し航続距離をナローボディ機最長の4000海里(7400km)以上に伸ばしたA321LR(ロング・レンジ)も開発中で年内に就航の予定だ。このA321LRは、特にLCCによる大西洋路線など中長距離国際線に適していて、我が国のピーチアビエーションも7月に2機発注し、2020年から東南アジアの7時間程度の中距離路線に投入する計画だ。

 A321neo/A321LRの躍進ぶりに対し、ボーイングも決して手をこまねいてきたわけではない。当初は、ベストセラー機B737の新型エンジン装備機であるB737MAXの胴体を延長して対抗しようとした。A321neoと同じ240席クラス、また燃料タンクを増設してA321LRを超える4500海里(8330km)の航続距離を目指すとの観測もあった。

 しかしながら蓋を開けてみると、昨年6月に「パリ航空ショー2017」で発表されたB737MAX 10は、席数は230席、航続距離は3215nm(5960km)止まりだった。もともとB737は設計が古く、胴体延長にも限界があり、これ以上の大型化は、同時並行で検討中の新型ワイドボディ機で実現する方向に戦略転換したのだった。

ワイドボディの快適性とナローボディの経済性の良いとこ取りの「B797」デザイン

 ボーイングは、公式的にはこの新型旅客機のことをいまだにB797とは呼んでおらず、もっぱらNMA(ニュー・ミッドサイズ・エアプレーンあるいはニュー・ミッドマーケット・エアプレーン)と呼んでいる。要するに、中間的な市場をターゲットにし、小型旅客機B737と中型旅客機B787の中間に位置し、そのギャップを埋める、席数で約220席から270席の比較的小型のワイドボディ機の構想である。ボーイングは、このような中間市場の航空機需要が、今後20年で4000機から5000機あると見込んでいる。

 機材コンセプトの基本は、「ワイドボディの快適性とナローボディの経済性の融合」である。つまり、旅客には快適なワイドボディ機の2通路の客室を提供し、エアラインとしてはナローボディ機並みの低コストを享受するのである。このため、新たに採用されるといわれている特徴が、初の「胴体のハイブリッド化」である。これまでの胴体の断面は、通常ほぼ真円に近いが、この機体では卵型、上下に押しつぶした楕円形となる。この結果、機体の抵抗は減少し、機体の全備重量も減少するので、燃費は通常のワイドボディ機よりずっと良くなる。ただし、旅客輸送ではワイドボディ機並みだが、貨物はナローボディ機並みの低容量となってしまう点は、評価が分かれる。

ボーイング、14年ぶり新型機「B797」開発で苦悩…完成時にはエアバスが市場独占の懸念もの画像2「NMA/B797」のハイブリッド胴体のイメージ(提供:筆者)

 さらに、新型のエンジン装備により、さらなる低燃費と時代の要請である静粛性を含む高い環境適合性が実現される。また、胴体や翼は、B787と同様、金属から複合材となる。その一方で、経済性が重視されるため、機体価格もナローボディ機並みに抑えられるもようだ。最近、80%の資本を買収し支配下に置いたブラジルのエンブラエル社の安くて良質なエンジニアを人的リソースとして活用し開発費を抑えることになるだろう。

エアバスによる強烈なカウンターと駆け引き-A321neo/A321LRの改造計画

 一方のエアバスは当然のことながら、黙ってはいない。「ボーイングの抱く中間市場の存在は幻想だ。すでにA321neo/A321LRがあり、もしワイドボディが欲しければA330neo-800(300席クラス)があるので、この市場は充足されている」と、ボーイングの構想を一蹴する。さらに、エアバスは、A321LRを改良し航続距離を4500海里まで延長したXLR(エクストラ・ロング・レンジ)を2022年に市場に出すことを検討すると、6月に発表した。つまり、B797の3年前に改良版を出して市場をさらに侵食し「B797が出てくる頃にはもう市場は残っていない」とボーイングを牽制、というより脅しをかけている。相手を降ろしにかかるポーカーゲームの駆け引きであり、チキンレースの様相だ。

 航空業界では、エアバス以外にもボーイングに対して懐疑的な声も少なくない。「2025年の実現は無理。実現できても市場が残っていないだろう」「中途半端なワイドボディより、むしろまっさらな新型ナローボディをつくって胴体を延長するほうが合理的だ」「貨物が少ないのは、ワイドボディとして魅力半減」などである。

 ボーイングとしては、このまま何もせず中間市場をエアバスが支配するのを看過するわけにもいかず、かといって新たなワイドボディを開発しても成功する保証はない。「悩める巨人、ボーイング」なのである。

 しかしながら、ボーイングとして大きな拠りどころは、旅客の快適性志向とワイドボディ機選好性である。旅客の強い支持が見込まれ、さらに価格もリーズナブルで最新のテクノロジーで経済性も従来機より高ければ、たとえ2025年と登場は遅くとも、多くのエアラインが採用してくれるものと、ボーイングは踏んでいるのであろう。

 これまで、ボーイングは多くのワイドボディ機を開発し世に送りだしてきた。B747(1970年)、B767(1982年)、777(1995年)、787(2011年)という新たなコンセプトで時代を画した旅客機は、いずれも成功を収め、民間航空の発展に寄与してきた。その意味で、新たなコンセプトの新型ワイドボディ機B797の登場が期待される。遅くとも、来年にはローンチ、あるいは断念のニュースが聞けるはずである。
(文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学特任教授、運輸総合研究所客員研究員)

橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学教授

橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学教授

日本航空で、エンジン工場、運航技術部課長,米国ナパ運航乗員訓練所次長,JALイ
ンフォテック社部長,JALUX社部長,日航財団研究開発センター主任研究員を歴任。
2008年~24年3月 桜美林大学客員教授。
2012~20年(一財)運輸総合研究所 客員研究員
2015年より航空経営研究所主席研究員
著書「リージョナル・ジェットが日本の航空を変える」で2011年第4回住田航空奨励
賞を受賞。
東京工業大学工学部機械工学科、同大学院生産機械工学科卒

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