ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 日本の新政府専用機、安全面の危険性
NEW
杉江弘「機長の目」

日本の新政府専用機、報じられない安全面の危険性

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
日本の新政府専用機、報じられない安全面の危険性の画像1現在の政府専用機(航空自衛隊HPより)

 2014年8月、日本政府は政府専用機について、現在使われているボーイング747-400を19年にはボーイング777-300ERに交代させ、その整備を従来の日本航空(JAL)から全日空(ANA)に変更すると発表した。私は驚きをもってこのニュースを聞いたが、メディアはこぞって整備を担当する会社が初めてANAになったというポイントしか報道しない。

 実は整備をJALからANAに変更するということはどうでもよく、問題は機材の安全性の比較である。つまり、ボーイング747に比べて777は安全性の面で優れているのかという点だ。政府専用機は何よりも安全性を優先して、経済性などは二の次でなくてはならない。政府首脳ばかりではなく皇族の方々も搭乗されるので、いかなる不測の事態にも対応できる航空機でなくてはならないはずだ。

 ボーイング747と777のもっとも大きな相違点は、エンジンが4基か2基かということだ。4発機の747では、仮にひとつのエンジンが故障しても、残り3基のエンジンで目的地まで飛行することができる。それに対して2発機の777では、ひとつのエンジンが故障したら、ただちに最寄りの空港へ緊急着陸しなければならない。これが操縦上の大きな違いだ。

 では、仮にヨーロッパ線や太平洋線でエンジントラブルが発生したらどうなるか。4発機では問題はないのだが、2発機では残されたエンジンは1基だけとなり、それも故障したらグライダーのようになって墜落の可能性が大となる。そのために最寄りの飛行場を探すことになるのだが、シベリア大陸ではなかなか見つからないし、仮に見つかってもかなり遠くなる。そこへ行きつくまでに、残されたエンジンも故障しないとは限らない。太平洋上空で同じことが起きたら、海上着水しか選択肢がないということもあり得るのである。

エアフォース・ワンの秘密

 このような事情から、アメリカの政府専用機「エアフォース・ワン」では、今後も4発機を採用し、現行のボーイング747の後継機種としては、その改良型のダッシュ8をベースとした機体とすることが、16年1月29日に正式に発表された。ちなみに現在、エアフォース・ワンに使われている機材はボーイング747-200Bという在来型である(正確に言えば改造型のVC-25A)。それは日本の新幹線でいえば0系に近い古いモデルに相当し、すでに製造されてから45年も経っている。

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
Hiroshi Sugie Official Site

Twitter:@CaptainSugie

日本の新政府専用機、報じられない安全面の危険性のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!