航空機の着陸は、滑走路にスムーズ(ソフト)に接地させたほうがよいか、あるいはドシンと衝撃が加わったかたちのほうがよいのか、世間でも関心が広がりつつある。
昨年、あるテレビ番組で大手航空会社の代表として出演した機長が、「着陸はソフトでなくドシンと着けるのが正解」と解説してスタジオをどよめかした。その番組はテレビ局がときどき特集する“航空会社の仕事大公開”という内容で、フライトに密着しながらパイロット、CA(客室乗務員)、整備士、それにグランドスタッフがどのような仕事をしているのかを紹介するものである。したがって制服姿で視聴者に語る内容は、タイアップしている航空会社としての考え方が反映しているもので、個人的発言ではすまされない。
さらに私自身も今年に入って新年会代わりに集まったジャーナリストと週刊誌編集者との雑談のなかでも同様の話が出て、世間では一部都市伝説化していると言われたのにも驚いた。
航空界に少し前までいた経験から言わせてもらうとまず、着陸にはドシンと着けるほうがよいなどとは飛行マニュアルのどこにも書かれていないし、世界の航空界では今でも「着陸はソフトに」というのは常識である。
パイロットにとっての着陸最後の数秒間のフレアーという機首の引き起こし操作によって、いかにスムーズに接地させるかという技術こそ、訓練でもっとも時間をかけている点でもある。スムーズに接地することは単に乗客へ安心感と快適性を与えるだけでなく、機体に与える衝撃を少なくして、接地が引き金となって新たなトラブルを引き起こすことを防ぐ目的がある。
それは整備コストの節約にもつながり、CAの怪我の防止にもプラスに働くのである。意外と知られていないが、CAの座るジャンプシートは薄く、衝撃に弱い。そのためハードランディングによって、腰や首を痛めて病欠になる事例も少なくない。これも航空会社にとって損失となる。
では、なぜドシンと接地する着陸のほうがよいというような話が広がってきたかといえば、ひとつには20年ほど前からパイロットのなかには、ハードランディングをしたときにCAへの「言い訳」のように語る風潮が生まれ、それをCAたちが知り合いなどに話したことを通して、いつの間にか世間に広まっていったと思われる。
定点着陸
スムーズな着陸に失敗して使われるその「言い訳」とは、「ドシンと定点に着陸をしたほうが残りの滑走路の距離が残り、オーバーランの危険性が少なくなる」という理屈だ。
この場合の定点とは滑走路端から300メートル地点から500メートル付近までを指す(公式には着陸帯は1000メートルまで)。パイロットとして、滑走路が雷や氷で滑りやすくなっているときには、できるだけこの定点に着陸させたほうがよいのは、以前から常識になっていて異論はない。