韓国では、朴槿恵大統領が大統領の地位と権限を濫用したことを理由に任期途中に罷免される事態となり、2017年5月に大統領選挙が行われた。選挙戦では各候補がさまざまな公約を掲げたが、当時の文在寅候補は公約のひとつとして、「最低賃金を2020年までに1万ウォンに引き上げる」ことを打ち出した。文在寅氏は当選して第19代大統領となったが、就任後、公約の実現を進めていった。
韓国の最低賃金はこれまでも比較的高い率で引き上げられてきた。2013~2017年までの引上率の平均値を見ると7.2%である。一方、日本では「働き方改革実行計画」で、最低賃金の年率3%程度を目途とした引上率の目標値を示している。文在寅大統領の公約が実行され始めてから韓国の最低賃金引上率は7.2%どころではない数値となるのだが、それ以前の引上率も3%を目標としている日本と比較できないほど高かった。
もちろん物価上昇率の差があれば、名目引上率でなく実質引上率を見る必要がある。しかし昔の韓国はインフレ気味であったが、最近は物価上昇率も落ち着いており、2013~2017年までの物価上昇率の平均値は1.2%である。同じ期間の日本における平均値は0.9%であるので、日韓における物価上昇率の差はほとんどなくなってきている。よって、名目引上率で日韓の引上率を比較しても問題はない。つまり、文在寅大統領が公約を実行して最低賃金が急上昇する前の引上率で比較しても、韓国が日本の倍を超える水準であるということができよう。
文在寅大統領が就任してから最初に引き上げられたのが、2018年に適用される最低賃金である。2018年は前年の1時間当たり6,470ウォンから7,530ウォンへと16.4%引き上げられた。そして続く2019年は8,350ウォンへと10.9%引き上げられる。ちなみに2019年の引上率では2020年に最低賃金を1万ウォンにするために次年の引上率を19.8%にしなければならず、事実上公約の実現は難しくなった。
これに対して労働組合側は公約違反であると大統領を批判し、文在寅大統領も謝罪した。しかし、そもそも公約自体が経済の実態を反映していないものであって、公約に近づけようと2年連続で10%を超える最低賃金の引き上げを行ったほうが罪深いと思われる。
日本でも最低賃金が引き上げられている。7月26日に公表された「平成30年度地域別最低賃金額改定の目安」についてでは、全国を4つのランクに分け、最高のAランクでは27円、最低のDランクでは23円の最低賃金の引き上げの目安額を示した。これは中央最低賃金審議会で答申された金額であり、地方最低賃金審議会での審議を経て最低賃金が決定する。ちなみに、全都道府県で目安額の通り最低賃金が引き上げられれば、最低賃金が2002年に時給で決まるようになってから最高額の引き上げとなり、全国で加重平均した引上率は3.1%となる。
日韓で逆転現象
韓国を見ると、これほど積極的に最低賃金を引き上げている日本が色褪せてしまうが、この結果として、日韓で最低賃金の逆転現象が生じている。そこで具体的に最低賃金額を比較してみよう。ちなみに、韓国ではある年の最低賃金は年始から年末に適用されるので、2019年の最低賃金は同年1月1日から12月31日までである。日本ではある年度の最低賃金は都道府県により最大で2週間程度の差が生じる場合があるが、多くは10月1日から翌年度の9月末まで適用される。よって「平成30年度」の最低賃金は、2018年10月1日から2019年の9月30日までのものであるといえる。そこで韓国の2019年と日本の「平成30年度」の最低賃金を比較する。