8万票もの差をつけて、玉城デニー氏が圧勝――。
9月30日に投開票された沖縄県知事選挙で、前宜野湾市長の佐喜眞淳氏を破っての勝利を、多くのメディアが「圧勝」「完勝」として伝えた。確かに、玉城氏の獲得した39万6632票は、沖縄県知事選で史上最多得票である。
だが、もう少し冷静な目で見るべきではないか、と語るのは、法学者、政治評論家の竹田恒泰氏である。
「メディアは『8万票も大差が付いた』と言いますけど、佐喜眞さんもそこそこ取って肉薄しています。得票率を見ると、玉城さんが55.07%に対して、佐喜眞さんが43.94%で、ほぼ拮抗しています。私に言わせれば、8万票もの大差ではなくて、たった8万票の差です。翁長さんの弔い合戦ということで大きな風が吹いたということと、佐喜眞さんの掲げた『対立から対話へ』というスローガンがあまりよくなかったということなどで、玉城さんが勝利したのでしょう。
今回、玉城さんの応援の主体になったのは、2015年に結成された『オール沖縄』(辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議)ですが、2016年からの沖縄の自治体の首長選挙を見ると、オール沖縄は11回のうち1度しか勝ってないのです。今回の知事選の結果を見ても、基地問題に関して沖縄の世論が割れているということがわかったということです。ですから選挙結果によって、1票でも少なかった人たちは黙れという話かといったら、そうではない。賛成する人も反対する人も織り混ざっているということですから、これを受けてどういうふうに着地させていくのかっていうのが、政治の役割だと思います」(竹田氏)
辺野古新基地建設を進めようとする政府には、この選挙結果はどのように影響するのだろうか。
「普天間基地から辺野古への移設ということが、スムーズには行かなくなった、難航するということですので、この選挙結果は、安倍政権にとっては“やりにくくなった”とはいえるでしょう。ただ、辺野古新基地反対とはいっても、知事としては承認撤回という手法はとれるでしょうが、翁長前知事も埋め立て承認取り消しの違法確認訴訟で最高裁まで争って負けています。政府としてはこれまでの路線に沿って、粛々と進めていくのだろうと思います。やりにくくなったのは事実ですが、計画が頓挫するかといえばそうではないでしょう」(同)
中国にとっての利益
玉城氏の沖縄県知事就任は、日米関係に影響を与えるのだろうか。
「これまでも、翁長さんが沖縄県知事でありながら、日米関係をここまで温めてきたわけですから、玉城さんが引き継いだからといって悪化するということはないでしょう」(同)
玉城氏の父親が米海兵隊員であったこともあり、沖縄知事選での勝利は米紙ワシントンポストやニューヨークタイムズなどで大きく報じられた。ニューヨークタイムズ(電子版)は、玉城氏の県知事選当選を受け「沖縄の米軍駐留を減らすために」との社説を掲載、「日米両政府は妥協案を見いだすべきだ」として新基地計画の再考を促している。アメリカの世論の受け止め方はどうなのだろうか。
「アメリカの世論というよりも、メディアがどういうふうに誘導したいのかということの表れと私は見ています。ワシントンポストもニューヨークタイムズも、スタンスは反トランプじゃないですか。安倍・トランプ路線でやっているのはダメじゃないかという視点から社説を書くと、そうなるということだと思うんですね。世論といってもですね、アメリカ人のほとんどは、普天間問題なんて知らないですから。ほんの一握りの人たちが意見を言っているだけで、アメリカ国民全員にとっては興味がない話でしょう」(同)
中国との関係は、どうなっていくのだろうか。
「中国共産党の『人民日報』の傘下に『環球時報』という国際誌があります。そこに、中国は沖縄の領有権も主張できるとする記事が載ったことがあります。尖閣問題で日本が譲歩しないのであれば、沖縄の独立を支援すべきだということが書かれていたわけです。一般の民主主義の新聞が書くのであれば何を書いても勝手ですが、一党独裁で中国を支配している中国共産党傘下の新聞です。それは共産党の承認の下で書かれたものと見なくてはいけない。
普天間問題がこじれて政府と沖縄が対立するということは、中国にとってはひたすら国益につながることです。だからこそ中国は介入しているのではないかと陰謀論を言う人もいますよね。実際に介入があるのかどうかはわかりませんけど、沖縄の基地問題が解消するというのは、中国にとってはつまらない話です。玉城さんが勝ったというのは、中国からしたら、それはもう“どんどんこじらせろ”と、ほくそ笑んで見ているのかなと思います。
玉城さんはもともと自由党で小沢一郎さんとの関係は強くて、小沢さんは中国と大変近しい存在ですよね。小沢・玉城ラインで沖縄をかき回せば、これは中国にとっても利益になるでしょう。小沢さんも政治的にいいポジションを取れるので、小沢さんにしても中国にしても、願ってもないところに落ち着いたのかなと思います」(同)
2つの不都合な点
玉城知事の誕生によって、今後求められることはなんだろうか。
「玉城さんの勝因として、2つの都合の悪いところを隠したということがあります。ひとつは、日本共産党が背後にしっかりついているということを、一所懸命隠しました。共産党が前に出ないように出ないように、相当に神経を使っていました。もうひとつは、普天間基地の危険性の除去については一言も触れないまま、選挙を進めたんですね。普天間が危険だから辺野古へ移設しようということになっているわけで、辺野古新基地建設反対一辺倒で、危険な普天間が使われ続けるのでは、本末転倒です。
一方、沖縄は感情的に難しいところがありますので、正論を吐いているだけではダメですよね。安倍政権としても法的なところだけで突き進んでいくのではなく、普天間の危険性を除去するという目的を掲げながら、しっかりと沖縄に寄り添っていくという姿勢をしっかり取っていくべきでしょう。選挙の争点というのは基地問題だけではないので、今回すべてが決したというよりも、これはひとつの局面です。これから国政選挙も含めてさまざまな選挙もあり、いろんな場面で見て判断していかなければならないと思います」(同)
玉城知事は10月4日の初登庁で、「いばらの道だが、そこにいばらがあれば、踏み締めて踏み越えていくという覚悟が必要だし、そのいばらをかき分けて突き進んでいきたい」「いばらをかき分けていったその先に、県民が求めている未来が必ず見えてくる。信じて突き進んでいきたい」と語った。
(文=深笛義也/ライター)