13年6月、産業用モーター大手、日本電産の創業者である永守重信会長兼社長(現会長)に招聘され、日本電産の副社長に就いた。一時は次期社長候補と目されていたが、永守氏と対立し、15年9月に日本電産を退社した。
呉氏は自分で進路を決めることを重視しているようだ。日産の意思決定権者はゴーン氏であり、日本電産は永守氏のワンマン会社だった。呉氏は業務執行役でしかなかった。
官製ファンドの革新機構の会長兼CEOに就いた日産副会長の志賀俊之氏は、日産や日本電産と喧嘩別れした呉氏をルネサスのトップに据えた。
一躍、呉氏はルネサスの最高意思決定権者になった。ルネサス発足当初の11年3月期(日本会計基準)の売上高は1兆1379億円あった。不採算の製品からの撤退を進めたために、売り上げは激減。17年12月期に決算期を3月から12月に変更し、会計基準も国際会計基準に移行。売上高は7803億円と最盛期に比べて3割以上減った。
自動車用半導体ではトップシェアだったが、今では世界第3位。首位のオランダNXPセミコンダクターズ、2位の独インフィニオンテクノロジーズを追う立場だ。
インターシル、IDTの買収に乗り出したのは、呉氏の言葉を借りるなら「サッカーワールドカップの予選通過ではなく、優勝を目指す」ためだった。
革新機構の出口戦略とも密接に関係する。革新機構は当初ルネサスの69.1%の株式を保有していた。ルネサスの再建のメドがついたとして、保有株式の売却に動き、現在の出資比率は33.4%である。
18年9月21日、革新機構は産業競争力強化法に基づき、新設分割するかたちでINCJを設立。特定の支援事業を引き継いだINCJが、ルネサス株の33.4%を保有する筆頭株主になった。既存の投資案件はINCJに一本化し、資金の回収を進める。一方、革新機構は25日、産業革新投資機構に改組した。これまでに2860億円を投じたが、1600億円を追加出資。人工知能(AI)など成長分野に間接投資し、INCJの失敗の反省から、直接、株式を引き受けることはしない。
つまりINCJが今後、ルネサス株を順次、売却していくことになるわけだ。ルネサス株をどこに、しかも有利な条件で売却できるのか。呉氏の腕の見せどころだ。
(文=編集部)