ルネサス、華々しい巨額買収に潜む「報じられない危険」…不必要な技術を法外な高値買いか?
ルネサス エレクトロニクスは9月11日、米国の半導体メーカーIntegrated Device Technology(IDT)を買収すると発表した。買収金額は約67億ドル(約7300億円)で、日本半導体メーカーのM&A(合併・買収)としては過去最大級となる。
今後、IDT株主総会での承認や、各国での独占禁止法の審査などの手続きを経て、ルネサスがIDTの株式を1株当たり49米ドルで買い取り、早ければ2019年前半に、IDTはルネサスの完全子会社になるという。
IDTは、タイミングデバイス、メモリインタフェースIC、無線給電用デバイス、センサーデバイスなどミックスドシグナルの半導体を設計しているファブレスである。IDTのグレゴリー・ウオーターズCEOは、「人の五感を複写する半導体で世界を変える」(9月2日付日本経済新聞より)と豪語している。
車載半導体を最大の強みとしているルネサスの呉文精CEOも、買収するIDTには、クルマの目や耳になるセンシングの技術を期待している模様である。しかし、この買収には、3つの不安があることを以下に示す。
第1の不安
IDTは15年に、車載向けセンサーデバイスを主力とするドイツの半導体メーカーZMDIを買収している。ZMDIは、独ボッシュなど大手自動車部品メーカーを顧客に抱えていた。そして9月11日の記者会見でルネサスの呉CEOは、「実は、ルネサスはZMDIを狙っていた」と明かしながら「(ルネサスの車載向け半導体製品である)R-Car搭載システムでは、IDTのフロントエンドとルネサスのミックスドシグナルが載っている」と両社が補完関係にあることを強調している(9月11日付「EE Times Japan」より)。
しかし、IDTの昨年の事業構成比率は、データセンター向けが全体の4割を占め、通信インフラ向けが約3割、家電向けが約2割、車載向けはたった1割程度しかない(図1)。つまり、IDTの車載半導体は、買収したZMDI頼みであり、IDTにおけるその比率は小さい。要するに、IDTには買収したZMDI以外に車載半導体の実績がないと思われる。
ここに筆者は、若干の不安を感じる。呉CEOは、「IDTはルネサス、(昨年買収が完了した)Intersilとの事業重複がなく高いシナジーが期待できる。IoTや無線分野は、ルネサスは弱かったが、IDTは強い」とも前述の記者会見で述べているが、本当に欲しかったのは、IDTが買収したZMDIの技術であり、それはIDTの1割程度しかなく、残りの9割はルネサスにとって必要ない技術なのではないか。もしそうだとすると、買収金額約7300億円は、あまりにも高い買い物なのではないか。