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松村太郎「米国発ビジネス&ITレポート」

革命児テスラ、存亡の危機…マスクCEOのマリファナ事件、赤字膨張、自動車大手もEV本腰

文=松村太郎/ITジャーナリスト
革命児テスラ、存亡の危機…マスクCEOのマリファナ事件、赤字膨張、自動車大手もEV本腰の画像1テスラCEOのイーロン・マスク氏(写真:ロイター/アフロ)

 ドイツの自動車大手、メルセデス・ベンツは「EQC」を披露した。SUV型の電気自動車で、約400kmの航続距離を実現する。このクルマの登場は、明確に先行する米テスラのSUV電気自動車「Model X」への対抗車種であると見て取れる。

 同じくドイツのBMWはすでに「i3」という完全電気自動車を販売しているが、やはりSUVの「X3」をベースとした電気自動車を用意しているといわれており、傘下のブランドMINIの電気自動車も2019年に生産することがアナウンスされている。

 これら電気自動車のラインアップは、ドイツ国内はもちろんのこと、自動車市場として巨大な米国、そして中国市場を意識したものだ。電気自動車、自動運転と、テクノロジーの強みを生かして展開するのが、シリコンバレーの企業テスラだ。しかしここ最近、テスラの雲行きは怪しくなる一方だ。

マリファナとウィスキーで番組出演するCEO

 テスラを率いるイーロン・マスク氏は米国時間9月6日、コメディアンのジョー・ローガン氏のトーク番組に出演した 。その番組内での行動は、驚きを集めるには十分だった。上場企業のトップがマリファナを吸い、ウィスキーを飲みながら饒舌に語る姿が配信されたからだ。

 カリフォルニアではすでに、趣向用のマリファナの所持や吸引も合法化されている。そのため、飲酒も含めて違法行為を行ったわけではない。ただ、マリファナはまだ合法化されていない国や米国の州もあり、その印象は悪い。米CNBCは、マリファナはテスラの行動規範を自ら犯していると批判している 。翌日のテスラ株は5%超えの下落というかたちで反応をした。

非上場化騒動も含めて、心配の声

 昨今のマスク氏の言動には危うさも募る。

 先月、Twitterで突然、テスラの非上場化と、その際の1株当たりの買い取り価格が420ドルになる旨を発表し、さらに資金のメドがあることを投稿したのだ 。

 エイプリルフールに「テスラ倒産」などをTwitterに投稿してきたこと、また買い取り価格として示された「420」という数字が、米国ではマリファナを示す隠語であることなどから、今回も冗談なのではないか、と半信半疑の向きもあった。

 ただし、非上場化の検討自体は実際に行われたようで、テスラの公式ブログでも同様の声明を発表している 。この発言によってテスラの株価が大きく上昇したことから、米国証券取引委員会(SEC)は調査の意向を示した。

 その後、株主からの反対も根強く、非上場化のプランを断念する声明が出された 。そのため、300ドルを超えていた株価は200ドル台中盤にまで落ち込む結果となった。

実際、非上場化は茨の道

 非上場化は過去を振り返ると茨の道だ。

 テスラが1株当たり420ドルで非上場化した場合、時価総額は720億ドル。9月7日現在の株価でもおよそ450億ドルとなる。米国でこれまでに最大の非上場化をしたのはTXU Energyで、318億ドルだった。しかし、そのTXUは2007年の非上場化から7年で連邦破産法第11条を申請し、倒産している。

 もとより、赤字が増大し続けているテスラにとって、非上場化は危険すぎるのだ。シリコンバレーの企業は、必ずしもニューヨークの投資家との間に良好な関係を築けているわけではない。そもそもシリコンバレーは、米国のベンチャー投資の5割以上を占めており、起業や成長は域内で行われていく企業がほとんどで、上場までウォール街のしきたりとは無縁で過ごせるからだ。

 しかし、ウォール街に金字塔を打ち立てたのはシリコンバレーの企業だった。2018年第3四半期決算の好調さを受けてアップルは8月2日、米国の上場企業として初めて時価総額1兆ドルを達成し、2018年9月にアマゾンもこれに続いた。

 アップルのティムクックCEOは「長期ビジョンを求められながら、90日ごとに評価される」決算の仕組みに疑問を抱きながらも、今価値がある企業として株主を魅了する良好な関係づくりを実らせた。一方のアマゾンは米小売業界で過去10年間、株価を2000%近く上昇させる成長を遂げ、さらに将来への高い期待を反映させた。

 テスラも、圧倒的なビジョンと、株主や投資家との良好な関係づくりによって、上場企業としてより良い方向へと進むことができる可能性を秘めている。しかし、既存の自動車業界の電気自動車シフトが一挙に進むまで、あまり時間は残されていない。
(文=松村太郎/ITジャーナリスト)

松村太郎/ITジャーナリスト

松村太郎/ITジャーナリスト

慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、ジャーナリストとして独立。テクノロジーとライフスタイルの関係を追いかける。2011年より8年間、米国カリフォルニア州バークレーに住み、テクノロジーの震源地であるサンフランシスコ・シリコンバレーを現地で取材した。
学校法人信学会 コードアカデミー高等学校

Twitter:@taromatsumura

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