ルネサス、華々しい巨額買収に潜む「報じられない危険」…不必要な技術を法外な高値買いか?
第2の不安
9月2日付日経新聞では、IDTの業績は、18年3月期の売上高は前期比16%増の高8.4億ドル、粗利益率50%超、営業利益1.11億ドル、営業利益率13.2%と、超優良企業と報じられている(図2)。
しかし、1990年まで遡ってみてみると、IDTの業績は非常に不安定であることがわかる(図3)。
売上高は、ITバブルが崩壊した2001年以降に大きく落ち込んでいる。また、08年のリーマン・ショック以降も、じり貧となった。その際には、10.44億ドルという巨額の営業赤字を計上した。恐らくIDTは、02年と09年に死にかかったのではないか。
営業利益のデータは04年以降しかないが、おそらく02年以降、赤字経営が続いていたものと思われる。その不振からなんとか脱却し、売上高が増大して黒字化を実現したのは、ビッグデータ時代を迎えた14年以降のことである。
前述の日経新聞やルネサスのIDT買収の記者会見では、黒字化した14年以降の業績しか発表していない。IDTの13年以前の赤字経営の実態は、あえて伏せていると勘繰らざるを得ない。もしかしたら、IDTは実に不安定な半導体メーカーなのではないか。たまたま、直近の5年間が好調だったにすぎないのではないか。筆者は、ここに大きな不安を感じる。
第3の不安
さらに、もっと不安なことがある。
IDTの最近の地域別売上高構成は、米国9.5%、欧州12.8%、日本8.0%、アジア69.6%となっており、アジアのほとんどが中国向けビジネスであると思われる(図4)。
「中国向けが過半以上」ということが、この買収を困難にするだろう。というのは、現在、米国と中国が激しいハイテク貿易戦争を行っているからだ。
中国の司法当局は、米ベインキャピタル率いる日米韓連合による東芝メモリの買収に難色を示した(幸いに買収は完了したが)。また、米クアルコムによるオランダNXPの買収については、中国が独禁法の審査をずるずる引きのばした結果、クアルコムは買収を断念せざるを得ない状態になった。
その中国が、ルネサスによるIDTの買収を許可するだろうか。
一方、米国も、ブロードコムによる米クアルコムの買収においては、対米外国投資委員会(CFIUS)が「安全保障上の懸念」を表明し、3月にトランプ大統領が「大統領令」を発令して買収を阻止した。
このように、「米国第一主義」を強硬に主張しているトランプ大統領が、中国をメインビジネスとしているIDTをルネサスが買収することを、許可するだろうか?
ルネサスによるIDTの買収は、米国と中国がこれを許可するかどうかにかかっている。どちらか一国でも「NO」と言ったら、この買収は成立しない。この高い壁を突破できるかどうかは、現時点では、わからない。今後、米国と中国がこの買収に、どのような反応を示すかに注目している。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)