もし理系では採用に当たって専門知識レベルが評価されるのであれば、企業側は必要以上に採用を早めても意味がないはずである。学生の持つ専門知識の深さと、企業が学生を優秀と判断する時期の早期化はトレードオフの関係にあるので、自然と均衡点が見いだされるはずである。よって、現行の4年次、もしくは修士2年次で十分なので、企業もあえて就活時期を過度に早めることはないであろう。政府が介入しなくても、自然とルールができていく。
しかし、文系は少し事情が異なる。理系に比して、文系はほとんど専門知識を就活で評価されることはないので、就活ルールがなくなると就活時期が早まる可能性は高い。その理由は、大企業の新卒一括採用の基準が、その学生の大学の偏差値(=ハードウェア)であり、入社後に“自社のOSをインストールする”ので、大学で何を学んだかは採用に際して重要ではない。大学側もこの実態は把握しており、専門が何かまったく不明な名前の学部を乱造しているのが実態である。とにかく受験生の関心をひける学部名であればよいのである。
これが、終身雇用を前提にした文系の新卒一括採用の採用基準である。学生のハードウェアは2年次でも3年次でも変わらないので、企業はより良いハードウェアを有した学生を早く確保したいはずである。理系であっても、専門知識よりもハードウェアを評価する企業、たとえばコンサルティング会社などであれば、採用は早期化するであろう。
つまり、理系を除いて、大学の教育はそれほど必要ではないと企業から考えられているのである。極端な例が、1年次から採用するファーストリテイリングやネスレ日本である。採用者の能力は、大学名でも大学教育でもなく、自分たちで見極めると言っているわけである。これはこれで理にかなった採用方針である。双方合意であれば、これに国が規制をかけるのは、職業選択の自由に反するのではないか。
文系学生の合理的な行動
このような就職状況で、内定をもらった学生にとって必要なのは、何を学んだかではなく、卒業に必要な単位を取得して、とにかく卒業することなのである。ゆえに学生は、楽単に向かうのである。これは、極めて合理的な行動である。
就活ルール廃止に怒っているのは、「大学教育は必要ない」と言われた文系大学だけである。この状況を考えれば、大学が就活時期を制限しろと言うのは、「就活ルールが廃止されると自分たちはいっそう相手にされなくなるので、規制でなんとかしてほしい」と政府にお願いしているようなものである。情けない話である。実際、いくら就活時期を規制しても、卒業することが重要な学生は、学業に集中するのではなく、単に大学の講義に出ているだけである。