ゆうちょ銀行とスルガ銀行が手を組む
07年10月、郵政民営化に伴い、ゆうちょ銀行が発足した。同時に、日本郵政の西川善文社長(当時)は、地方銀行に住宅ローンでの提携を呼びかけた。ゆうちょ銀行が代理店となって地銀の住宅ローンを委託販売する見返りに、住宅ローンのノウハウを教えてほしいというものだった。
地銀各行は投資信託の販売で、ゆうちょ銀行の強力な販売力を見せつけられていた。住宅ローンのノウハウを手に入れれば、いずれ自前の住宅ローンを手掛けることになる。有力地銀は、ゆうちょ銀行がこれ以上肥大化すれば「民業圧迫になる」と声高に叫び、全国地方銀行協会は内々に「ゆうちょ銀ノー(住宅ローンで提携しない)」と申し合わせていた。
ゆうちょ銀行が住宅ローン提携を申し入れたのは、住宅ローン残高の上位10行。横浜、千葉、福岡、静岡、常陽、スルガなどだ。“西川提案”を軒並み断るなかで唯一、オファーに応じたのがスルガ銀行だった。地銀協の申し合わせは機関決定ではない。そのため、他銀行は「スルガが抜け駆けした。けしからん」とは言えないのだ。
スルガ銀行の岡野光喜社長(当時)は「確信犯的な抜け駆けをした」と、有力地銀の頭取は言い切るが、表立ってはスルガ銀行に何も言わなかった。
今回のスルガ銀行の不祥事は、岡野一族による同族経営の帰結だ。引責辞任した岡野光喜・前会長は最大戦犯と指弾されている。
「スルガは銀行ではなく消費者金融会社」(有力地銀の頭取)。地銀各行が、スルガ銀行の不祥事を冷やかに見ているのは、「スルガ銀行が抜け駆けして、ゆうちょ銀行と住宅ローンで提携した恨みつらみが根底に横たわっているから」(地銀担当のアナリスト)との指摘もある。
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ゆうちょ銀行は08年5月、スルガ銀行と提携して住宅ローンの仲介を始めた。勤続年数が短い会社員や、派遣の仕事をしている独身女性など、これまで銀行が二の足を踏んでいたハイリスク層向けの住宅ローンで、両行は提携した。住宅ローンは当時、35年固定で年3~4%の金利が主流だったが、年6~7%と高い金利を設定した。
スルガ銀行が、ビジネスモデルを個人ローンに特化して高収益をあげるにようになる転換点は、実はゆうちょ銀行との住宅ローンの提携だった。
ゆうちょ銀行の18年3月期の住宅ローンの新規取扱額(仲介)は、前述したとおり356億円だった。新規取扱額の累計は4189億円に上る。