“カフェ戦争”が激化している。大手チェーンと街の喫茶店などがしのぎを削るなか、コンビニエンスストアのカウンターコーヒーがヒット商品となり、消費者の奪い合いが続く。また、焙煎方法や抽出者の違いを打ち出し、高品質なコーヒーを見える化した「第4の波(フォースウェーブ)」の到来もささやかれており、今後もコーヒー需要の高まりが予想されているのだ。
帝国データバンクの調査【※1】によると、喫茶店・カフェ経営業者1180社の2017年の売上高合計は、前年比4.6%増の6415億3200万円となり、拡大傾向が続いている。
売上高ランキングでは、1位のスターバックスコーヒージャパンが約1709億円で全体の約4分の1を占める。2位はドトールコーヒーの約725億円、3位はタリーズコーヒージャパンの約302億円。増収率トップはコメダ(売上高243億円、前年比10.7%増)、次いでタリーズ(同9.1%増)となっている。
コメダやタリーズが躍進した理由は何か。また、王者スタバは安泰なのか。帝国データバンク東京支社情報部情報取材編集課の伊佐美波副主任に話をうかがった。
コメダとタリーズ、好調の舞台裏
コメダの売上高前年比10.7%増、タリーズの9.1%増という増収率は、スタバ(6.4%増)、ドトール(1.8%増)、売上高4位のサンマルクカフェ(3.0%増)を大きく引き離す。この差は何か。
「16年に上場したコメダホールディングス傘下のコメダは、FC加盟店部門で関東、関西、九州地区で出店が順次進められ、ロイヤリティ収入が増加しました。また、店舗数が増えたことでコーヒー豆やパンなどの食材販売量も増加しています。コメダといえば、モーニングサービスに代表される価格面での手頃感に加え、きめ細やかな接客サービスや郊外の広いスペースからなる居心地の良い空間づくりが特徴で、それらの施策が幅広い客層に受け入れられている点も大きいでしょう。FCとしての店舗展開で手元資金を抑えながら、短期間で急拡大しています。
タリーズもFCの店舗拡大が順調です。メニュー面では、飲料に加えて、パスタやパンケーキ、アイスクリームなどのフード類を充実させ、客単価の上昇に努めています。親会社の伊藤園もタリーズブランドを生かしたコーヒー飲料の販売を進めており、販促の面では相乗効果を得られるメリットもありますね」(伊佐氏)
スタバ、ドトールの地位は安泰か?
今回の調査で改めて浮き彫りになったのが、スタバの圧倒的な存在感だ。前述したように、17年の売上高は約1709億円で全体の約4分の1を占め、2位のドトールに2倍以上の差をつけている(※今回の調査では、ドトールコーヒーと日本レストランシステムは別会社として算出したが、両者は2007年に経営統合し、親会社はドトール・日レスホールディングスとなっている)。「スターバックス コーヒー」の運営やコーヒー関連商品の販売を手がけ、18年9月末時点の店舗数は1392(うちライセンス106)だ。
コンビニ向けチルドカップのカフェラテやエスプレッソなどをリニューアルしたほか、「ミルクカスタードプリン」や「チョコレートプリン」などの期間限定商品が人気を集め、既存店の客単価と来店客数が増加。さらに、新規出店数も増加した結果、店舗売上・ライセンス収入ともに増収となった。
「スタバは、若い女性客を中心に高評価を得ているフラペチーノなどの季節限定ドリンクを重点販売するなど、まだまだ好調です。また、ドリンクやフードなどの商品だけでなく、店舗デザインや従業員対応などによる“居心地良い場の提供”という点では、他社とは一線を画した独自の地位を築き、高収益体質を構築しています。
一方で、人手不足が顕在化するなか、ブランド力一本でどこまでがんばれるかという側面もあるでしょう。また、直営店での展開がほとんどなので、『将来、店舗数が足かせになることもあるのでは』との意見も聞かれます。他方、店舗の立地の良さなどから今後、アパレルや雑貨店など他業態が新規で併設するカフェブランドとしては一番に想起されるであろう点は強みと言えるでしょう」(同)
スタバのこれまでの実績を考えれば、当面は安泰かもしれない。一方、売上高2位のドトールは増収率が前年比1.8%増と、同3位のタリーズや5位のコメダと比べて見劣りする。競争が激化するカフェ業界においては、2位のドトールとて安穏とはしていられないだろう。
明暗分かれる?カフェ業界の今
年商100億円以上の10社で売上高全体の66.3%を占めるなど、カフェ業界は大手主導の寡占化が進みつつある。今後は、勝ち組と負け組の差がより鮮明になり明暗が分かれていくのだろうか。
「一部の大手では、複数の業態を持つ強みを生かして相乗効果を狙う動きが活発化しています。カフェ業界は他業種との親和性が高いためです。同じグループ企業内でカフェビジネスやフード開発のノウハウを他業種に生かして利益拡大につなげている例もあります。顧客獲得競争が激化するなか、経営統合などによるブランドの多角化や、事業売却などによる事業の選択と集中の必要に迫られることもあるかもしれません」(同)
大手の一角であるユーシーシーホールディングスは、主力の「上島珈琲店」などへの積極的な投資を行うため、今年5月にカフェチェーン「珈琲館」の株式を投資ファンドに譲渡した。
ドトールも高価格路線へ
また、売上高ではランキング外だが、日本レストランシステムの動きは注目に値する。主力の「星乃珈琲店」事業では、競合他社との競争や食事メニューの固定化などで既存店の集客数は前年から微減となったものの、新業態「OSLO COFFEE」の出店を積極化した。ハンドドリップや急冷式アイスコーヒーなどの「サードウェーブ」に近い業態で話題を集め、充実したフードメニューで客単価も上昇。既存店舗以外の業態が好調だったため、全体の集客数・客単価ともに前期を上回り、増収を果たしている。
この「星乃珈琲店」やコメダが運営する「コメダ珈琲店」は、フルサービスといわれるシステムで支持を集めている。同様に、一部の大手では低価格から一歩進んだ「上質な空間・接客サービス」を打ち出す動きが見られる。代表格は東和フードサービスが運営する「椿屋珈琲店」などだが、低価格帯のドトールも高級喫茶店「神乃珈琲」の出店を加速させている。
「喫茶店・カフェ業界は、時代の変遷とともに細分化されてきました。手軽なコンビニコーヒーが支持を集め、セルフ式カフェの価格優位性が崩れつつあるなか、フルサービスの業態が支持を得ています。高価格路線の業態は、ポジションの確立とブランドの定着で集客に努めています」(同)
今後も、低価格帯のセルフ式と高価格帯のフルサービスのカフェが共存していくことになりそうだが、これも消費者の好みが多様化しているからなのだろうか。
「国内のコーヒー消費は堅調です。サードウェーブの流行やコンビニコーヒーの大ヒットが契機となり、コーヒーに興味を持つ人が増えたといわれています。加えて、焙煎方法や抽出者の違いを打ち出した『フォースウェーブ』が押し寄せる動きもあり、コーヒー需要は今後さらに高まると期待されています」(同)
一方で、街の喫茶店は苦戦を強いられている。売上高規模別に見ると「1億円未満」が832社(構成比70.5%)で最多となっており、個人事業者は203社(同17.2%)。帝国データバンクの『飲食店の倒産動向調査』によると、17年度の喫茶店の倒産は前年度比29.8%増の61件(うち個人は29件)発生しているほか、代表者の高齢化などで休廃業・解散を余儀なくされるケースも少なくない。
カフェ業界の熾烈な競争は、さらに過熱していきそうな気配だ。
(文=長井雄一朗/ライター)
【※1】
2013年から2017年の年売上高が判明し、「喫茶店」経営を主な事業としている1180社(法人、個人営業)を帝国データバンクの企業概要ファイル「COSMOS2」(147万社収録)から抽出し、分析