人工知能(AI)、ロボットに象徴される第4次産業革命のイノベーションが世界的に急進展してきた。焦点のひとつ、自動運転車の技術競争では電気自動車(EV)で先行する中国勢と日本、ドイツ、アメリカの先進自動車メーカーがしのぎを削る。イノベーションはデジタル革命を軸にすべての産業と生活の領域に及ぶため、「劇的変化時代」が到来する。
このイノベーションは、AIが頭脳に、ロボットが手足に、「5G(第5世代)」などの高速大容量の通信が神経にたとえられる。そのコアになるのが、インターネットを使うパソコンに加え、スマートフォンの普及や、分散するデータをひとまとめに集めるビッグデータ、あらゆるものをネットにつなげるIoT(モノのインターネット)だ。
ドイツでは「インダストリー4.0」、アメリカは「インダストリアル・インターネット」、中国は「中国製造2025」の名で、すでに官民挙げてこのイノベーションに乗り出している。日本政府も「Society5.0」と銘打ち、今年6月に実現推進を確認した。「Society5.0」とは、「狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会に続く人類史上5番目の新しい価値創出の社会」を指す。
今注目されているのは、新イノベーションの基盤を提供する「プラットフォーマー」の覇権争いのゆくえである。強いプラットフォーマーが突出した市場シェアを握って情報支配を強めるからだ。検索、ネット通販、交流サイト(SNS)、スマホのプラットフォームの4分野で世界的に影響力を振るい、急成長を続けるのが米IT(情報技術)の大手4社。頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンだ。個人情報保護や独占禁止法違反をめぐり、規制や訴訟の動きが欧州連合(EU)などから相次いできたのも、GAFAが寡占的に市場支配力を握るからである。
10月下旬に発表されたアマゾンとグーグルの7~9月期決算では、アマゾンが売上高で前年同期比29%増の565億7600万ドル、純利益が同11倍の28億8300万ドルと4半期ベースで過去最高を記録した。グーグルの持ち株会社、アルファベットも売上高を2割増やし、過去最高を記録した。特に伸びたのがアマゾンの広告収入で前年同期比2.2倍に拡大しており、アマゾンの商品情報検索を利用する消費者が急増している実態を裏付けた。
9月に株価が最高値をつけたアマゾンの場合、開発中の音声AI「アレクサ」が投資家の耳目を集める。人の音声による呼びかけに反応するAIで、9月に電子レンジや壁掛け時計に組み込むと発表した。電子レンジは「かけ声」で調理を始め、時計ではアラームなどをセットできる。対抗するグーグルも音声AI「アシスタント」の開発を急ぐ。
自動運転車開発では、トヨタ自動車が10月、ソフトバンクグループと移動データを活用し、次世代の移動サービスを手がけることで提携、双方が出資して新会社を設立すると発表した。ライドシェア(相乗り)や移動型店舗などの新サービス、自動運転車普及に向けたデータ収集・解析に乗り出す。
建設現場にも無人運転の波が押し寄せる。小松製作所(コマツ)は10月、AIを使って掘削したり走ったりできる無人運転の建設機械を開発したと発表した。AIの画像指示に沿って障害物をよけ、ダンプやショベルカーが自らの判断で土木工事を行う。
生産現場のIoT化も、機械部品メーカーの間で広がってきた。THK、NTTドコモ、シスコシステムズの3社は10月、機械部品からデータを取り、故障の予兆を探知する新サービス「オムニエッジ」を来春から商用化すると発表した。これに先立ち試験導入する企業には、同サービスを無償で提供する。
セブンもデジタル革命に乗り出す
流通業界でも、内向きの自前主義だったセブン&アイ・ホールディングスがデジタル革命に向けて舵を切った。異業種のデータを活用し合う研究会を今夏に立ち上げ、NTTドコモやANAホールディングス、東京急行電鉄、三井物産などが加わった。ビッグデータを活用して、スマホによる決済や宅配の実用化、無人店舗化を急ぐ。
現在の約100倍の速度で通信できる高速大容量の次世代無線通信規格「5G」向けの基地局開発でも、10月、富士通とスウェーデンの通信大手、エリクソンが提携すると発表した。NECと韓国サムスン電子の提携に続くものだ。
第4次産業革命の激動期、成果を早めに得ようと「他社との連携」が急増している。
(文=北沢栄/ジャーナリスト)