「JINS(ジンズ)」ブランドで均一料金の眼鏡を販売するジェイアイエヌが、快進撃を続けている。企画から製造、販売まで自社で管理するSPA(製造小売り)のビジネスモデルだから、「眼鏡のユニクロ」というのが通り名になっている。SPAを広めたのはユニクロを展開するファーストリテイリングである。
ジェイアイエヌは2013年5月30日にジャスダック市場から昇格し、東証1部に上場した。現在の国内店舗数は212店(13年2月時点)。
JINSといえば100万本以上売れたパソコン用眼鏡などヒット商品を相次いで開発し、13年8月期の売上高は380億円の見込み。10年同期は106億円だったから、3年間で3.6倍に急成長したといえる。7月10日に同社が発表した12年9月~13年5月期の連結決算は、純利益が前年同期比4.3倍、26億円だった。売上高は78%増の268億円。営業利益は3.2倍の50億円、経常利益は3倍の46億円だった。13年8月期(通期)は、これまでの予想を据え置いたが、上振れが濃厚である。
東証1部上場を果たした5月末の記者会見で田中仁社長(47.8%の株式を持つ筆頭株主でもある)は、「5年前後で売り上げ1000億円を達成したい」と抱負を語った。予定通りの成長軌道を描けば、眼鏡市場のガリバーになれる。
ちなみに現在の首位は「眼鏡市場」を展開するメガネトップ。メガネトップは東証1部上場で13年3月期の売り上げは676億円強。MBO(経営陣が参加する買収)で冨澤昌宏社長の資産管理会社が48%強の株式を取得。その後、全株式を取得して9月に上場廃止になる。これにより、株主に対してフリーハンドで事業展開ができるようにするという。2位は三城ホールディングス(東証1部上場。パリミキや子会社の金鳳堂の店名でチェーン展開している。金鳳堂は百貨店向けだ)である。
JINSはPC用や花粉対策用などの機能性商品が想定以上に伸びている。新たに投入した高価格帯のクラシックフレームも好評で、商品の平均単価を100円押し上げ、既存店の業績を下支えした。広告宣伝費の増加や円安のマイナス要因を吸収して、13年8月期には76億円の経常利益を予定している。12年同期の経常利益は25億5100万円だったから3倍近い増益になるが、この数字は上方修正される可能性が高い。
「13世紀後半にイタリアで発明され、それ以降、視力の矯正が主な用途だった眼鏡に新しい機能を加えたい」というのが田中社長の持論で、「視力矯正を目的としない新しい市場の創出」(同)へと突き進む。
紫外線と湿度に反応して色が変わる調光レンズが欧州では伸びているが、日本ではこれから。調光レンズそのものの知名度が低く、価格も1万円以上する。JINSは大手メーカーと共同で調光レンズを開発し、大量発注することによって3900円という価格を実現。「カラーコントロールレンズ」という名称で今春から売り出した。
●目指す中国市場の拡大
田中社長はSPAモデルで衣料品の価格破壊を実現したファーストリテイリングの柳井正会長兼社長を経営の師としている。次に目指しているのは中国市場での拡大だ。中国の店舗数は現在12店だが、16年8月期には100店舗を目標にしている。毎年20店以上出店してペースを上げる。
中国は14年8月期には黒字化のメドをつける。瀋陽市に1号店を出したのは10年12月。北京や上海の日系企業が運営する商業施設に出店してきたが、これからは中国企業の施設に重点を置き、沿岸部の大都市だけでなく内陸部の都市にも店舗を展開するという。
JINSと同じ低価格店「Zoff」を運営するインターメステックは北京、上海、南京など15店を展開しており、今期末に30店近くに増やす計画だ。三城ホールディングスはすでに100店以上を出店しており、中国市場で先行している。
田中社長は近い将来「日本と海外の売り上げを同じ規模にしたい」と語る。現在は年商380億円(今期予想)の大半が国内である。
JINSばかりが脚光を浴びているが、国内の眼鏡市場は縮小している。ピーク時に6000億円あった市場規模が現在は35%減の4000億円になった。低価格で販売するJINSやZoffが大きく伸びたのに対して、高級眼鏡店の販売は減っている。眼鏡をかける人は増えても市場は縮小するといういびつな状態なのだ。
JINSが機能性を重視した眼鏡や、クラシック路線で中高年層を開拓しているのは、低価格化のトレンドに歯止めを掛ける狙いがあるからだ。首都圏が営業地盤のメガネスーパー(ジャスダック上場)は、投資ファンドの支援を受けて戦線を再構築中だ。業界の再編が進むとすれば、驚異の急成長を遂げているジェイアイエヌが中心になるとの見方が多い。
●JINSの7月の既存店売り上げは3.5%減
8月5日に発表になった7月のJINSの既存店売り上げは前年同月比3.5%減だった。既存店売り上げがマイナスになるのは2009年4月以来、4年3ヵ月ぶりだった。7月は前年同月より休日が1日少なかったほか、局地的に豪雨があるなど天候に恵まれなかったことが影響した。パソコン用眼鏡の販売の増加ペースがやや落ちたことを投資家は嫌気している。
成長鈍化を懸念する売りが出て、8月14日には3090円と今年5月に東証1部に上場して以降の最安値をつけたが、16日にはすかさず反発して、290円高の3500円となった。19日も115円高の3615円と連騰した。アナリストの間では「成長鈍化は一過性のもの」との見方が多いようだ。
(文=編集部)