製薬企業における買収の重要性
製薬業界といっても、市販薬と医療用医薬品ではビジネスモデルが異なる。医療用医薬品企業は、“ブロックバスター”(年間の売上高が10億ドル<1130億円>を上回る医薬品)を多く揃えなければならない。それができない場合、その企業の存続が危ぶまれる。他企業の新薬開発だけでなく、ジェネリック医薬品(特許が切れた後発医薬品)の存在も競争上の脅威だ。医療用医薬品企業が生き残るためには、新しい効果が見込める、画期的な治療薬を生み出さなければならない。
ただ、製薬企業が研究開発に着手してから新薬を発売するまでには、9~17年程度の時間がかかる。世界第14位の医療用医薬品企業であるBMSが小野薬品などと開発したがん治療薬「オプジーボ」は、22年の歳月を要した。想定された効果が確認できず、開発が中止されることもある。その状況が続くと、収益には下押し圧力がかかる。
新薬を開発するためには、他の医療用医薬品企業(またはその一部事業)を買収する必要がある。買収や研究開発向け資金を確保するために、自社の非中核事業を売却する必要性も高まっている。武田薬品は海外競争力を高めるためにアイルランドのシャイアー社を買収する。それに対して、BMSは中核事業の強化のためにフランスの市販薬事業を売却しようとしている。
BMSのように事業の一部を売却するケースは増えるだろう。出物があった際にそのリスクを精査し、買収が適切か否かを見極める力をつけることは、大正製薬をはじめ、わが国企業の収益力強化に欠かせない。企業全体を買収することに比べると、カーブアウト型の買収のほうが資金面を中心としたリスクは抑制できる。そう考えると、海外での買収に伴うリスクを見極めるだけでなく、出物があった際に迅速にそれを評価し、買収実行の可否を判断する組織力を整備することは、わが国企業の将来を左右するだろう。
重要性高まる経営者の役割
今後、わが国製薬企業などの生き残りのために、経営者の重要性は増す。特に、海外の買収などに関するリスクを的確に評価し、収益につなげる経営者の手腕が求められる。