富士フイルムホールディングス(HD)による米ゼロックスの買収が実現しない可能性が高まってきた。縮小することが確実な日本市場に見切りを付け、海外進出を模索する企業は多いが、海外M&A(合併・買収)がうまくいかないケースは多い。M&Aというのはあくまで相手があって成立するものであり、買い手側の要求だけを突きつけていてはうまくいかない。今回、同社の交渉が暗礁に乗り上げたのも基本的にはこれが原因と考えられる。
買収の実現が難しくなってきた
富士フイルムHDの古森重隆会長は、経済紙のインタビューに応じ、買収は「難しくなった」と発言。米ゼロックスの買収が困難になっていることを認めた。
筆者はこの案件については、買収が発表された当初から、ゼロックスの株主が納得しない可能性について指摘してきたが、残念ながら筆者の予想通りとなってしまった。
この買収案件が発表されたのは2018年1月のことだが、富士フイルムとゼロックスの関係は1960年代まで遡る。
富士フイルムの前身は銀塩写真やフイルムを製造する富士写真フイルムという企業で、デジタルカメラが登場する以前は高収益を実現する超優良企業として知られていた。
一方、米ゼロックスは複写機を製造する米国のメーカーで、こちらも超優良企業の代名詞のような存在だった。日米の優良企業による合弁会社として設立されたのが富士ゼロックスで、同社はゼロックスの事業をアジア太平洋地域で展開することになった。
形の上では、富士ゼロックスは富士フイルムの傘下にあったが、外資系企業だったこともあり、富士フイルムとは独立して経営が行われてきた。こうした状況を変えたのが、銀塩写真の激減という市場の変化である。
デジカメの普及によって銀塩写真の市場が急速に縮小。ゼロックス側の事情もあり、富士フイルムは富士ゼロックスの株式をゼロックスから追加取得した。富士ゼロックスという複写機事業を取り込むことで、富士フイルムは銀塩写真からの脱却に成功し、現在に至っている。
既存株主が猛反発
ところが運悪く、今度はペーパーレス化の波が到来し、複写機事業の業績が悪化し始めた。富士フイルム側は、米国のゼロックス本体を吸収し、ゼロックス事業をすべて富士フイルムの傘下に置くという計画を発表した。具体的には、富士フイルムが米ゼロックスの株式50.1%を取得し、子会社である富士ゼロックスと経営統合するというスキームである。
複写機の事業が低迷しているのは、全世界的な現象なので、地域ごとに別経営になっている事業を統合し、経営をスリム化するというのはひとつの選択肢といってよい。
だが、今回のM&Aは当初の予定通りには進まなかった。最大の問題は米ゼロックスの既存株主である。
今回のスキームは富士フイルム側にキャッシュアウトがなく、約2500億円の特別配当だけで経営権を掌握するというものであり、圧倒的に富士フイルム側に有利な内容だった。こうしたスキームに対してゼロックスの株主が反発するのはごく自然なことであり、実際、富士フイルムによる買収計画が発表されると、株主らは買収に反対し、結局、ゼロックスの経営陣は一度は合意した計画を破棄してしまった。