個室居酒屋「柚柚~yuyu」などを展開するアンドモワ(東京都港区、飛髙和也社長、非上場)は10月29日までに事業を停止した。近日中に破産を申請する。東京商工リサーチによると負債総額は約100億円。
アンドモワは2005年6月、川中和幸氏が大阪市堂山町で居酒屋を創業したことに始まる。06年4月に川中商事を設立して、大阪・東京など都市圏を中心に居酒屋チェーンの展開に乗り出す。「竹取御殿」や「桜坂」といった宴会を主眼とする個室居酒屋を全国に展開。職場の同僚や大学の部活仲間と個室で飲む安価な居酒屋として、20代の若者を引きつけた。営業の本拠地を東京に移し、店舗の買い取りによるスピード出店で創業7年目の13年に350店舗を達成し業界の風雲児と呼ばれた。
芸能人がプロデュースした居酒屋も幾つか手がけている。元横綱・若乃花こと花田勝氏がプロデュースした「個室居酒屋 若の台所」「個室居酒屋 赤鶏御殿」などを関西を中心に約60店近く展開している。
賃料請求訴訟も
川中商事はホームページを持っていないため「本社がどこにあるかわからない謎の会社といわれた」(外食関係者)。11年から14年にかけて、川中商事が経営する神奈川県川崎市、兵庫県姫路市、宮城県仙台市の各1店舗でノロウイルスによる食中毒が発生、営業停止処分を受けた。
12年3月、居酒屋「さくらさくら新小岩店」で火災が発生した。消火活動によりビル内に入居するパチンコ店が水浸しとなり、遊技台や設備が使用不能になった。パチンコ店は居酒屋を運営する川中商事に2億4000万円の損害賠償を請求した。不祥事が重なり経営が悪化。川中氏は川中商事の経営を断念した。15年9月、川中氏は社長を辞任。商号をアンドモワに変更した。翌10月、投資ファンドがアンドモワの株式を取得し、16年8月に飲食店運営の子会社9社を吸収し現体制となった。
「阪神タイガース酒場」やアニメカフェなど話題性のある業態を出店。特に個室居酒屋に強みにもち、宴会需要をメインターゲットとした。ネット上のプロモーションを重視した営業を強化し、19年8月期の売上高は約180億円をあげていた。
しかし、不採算店舗の撤退による損失などで赤字計上が続いていたうえ、20年の初頭以降は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、メインとしてきた宴会需要が消滅。20年8月期の売上高は、およそ98億円に激減し、大幅な赤字を計上、債務超過に転落した。
20年6月に全店舗を休業し、従業員のリストラのほか順次店舗の撤退を進めていた。その後もたび重なる「緊急事態宣言」の発令などで事業環境の悪化が続くなか、入店していたビルオーナーなどから複数の賃料請求訴訟を受けた。SNS上で賃金未払いが話題になり、資金難が表面化した。21年10月に緊急事態宣言は解除されたが営業再開のメドが立たず、事業継続を断念した。
飲食業の倒産は557件
東京商工リサーチがまとめた2021年1月~10月の飲食業倒産(負債1000万円以上)は557件(前年同期比23.6%減)。コロナ禍の各種支援策が奏功し、倒産件数は前年同期を下回った。それでも休業や時短営業、酒類の提供制限に加え、団体客による宴会需要が蒸発した居酒屋は大打撃を受けた。居酒屋の倒産は130件で30年間で過去2番目の多さだという。
飲食業のなかでも、コロナが直撃したのが居酒屋だったことが鮮明になってきた。今後、上場企業クラスの経営の行き詰まりが表面化しないとも限らない。居酒屋は、今でも危険水域から脱出できていない。
(文=編集部)