従来の防災無線の性能の低さも、防災ラジオが広まった要因のひとつ
防災無線として優れた性能を持ったポケベル波を転用しているわけだが、防災ラジオが注目を集める理由はそれだけではないという。
「まずひとついえるのが、従来より使われている大手メーカー製の防災無線があまりいいものでなく、自治体も困っていた、ということです。当社は08年、経営の傾いていたYOZANからポケベル事業を事業分割して新生・東京テレメッセージとなったのですが、当初、防災ラジオを導入していたのは3自治体だけでした。正直事業としては成り立っていなかったのですが、その自治体の担当者は『大手メーカー製のものを含めていろいろ試してみたけど、まともに使えるのは防災ラジオだけだったから導入した』と言っていました。
また、従来より使用されていた防災無線は、屋外に設置された拡声器を通じて避難警報などが発信される『屋外拡声型』が主流だったのですが、これには天候の状態などによっては聞こえづらいというデメリットがあります。例えば15年の『平成27年9月関東・東北豪雨』のときには鬼怒川の堤防が決壊して、地元住民が孤立する事態となりましたが、避難警報が豪雨でかき消されていたため、避難警報が流れていたこと自体を知らなかった住民の方もいたそうです。
そういったこともあって、個々の住宅に設置されるタイプの『戸別受信機』を導入する自治体が年々増えてきているのですが、先ほどもお伝えしたとおり、ポケベル波は建物内にも届きやすい性質を持っています。また、他メーカー製の戸別受信機は一台5万円程度してしまうのですが、当社の防災ラジオは一台1万8000円からと安価なので、自治体としても採用しやすく、近年急速にシェアを伸ばしております」(同)
性能も高く、なおかつ値段も安い。防災ラジオが選ばれるのは当然の流れのように感じる。
2020年度までは、国が防災に関する整備費を7割負担してくれる
そして今、自治体は防災について改めて考えないといけない時期にきているそうだ。
「総務省が行う地方財政対策の一環として、『緊急防災・減災事業債』というものがあります。これは自治体の防災や減災に関する整備費を国が7割負担するものなのですが、その期限が20年度までとなっています。つまり自治体は、防災に関する整備を行うなら国に7割負担してもらえる今のうち、という状況にあるわけです。
こういったものは、いくら外部からセールスを行っても、自治体自身が危機感を持っていないと導入には至りません。そのため当社では営業活動をせず、興味を持って連絡をくださった自治体に出向くかたちをとってきましたが、そもそも存在を知らなければ興味の持ちようもないでしょう。ですから、最近は当社から自治体へと訪問することも多いのですが、伺うと多くの自治体が興味を持ってくださいます。実際、19年3月より埼玉県秩父市や、京都府京都市などでも導入される予定となっております」(同)
かつてコミュニケーションツールとして身近なものだったポケベルは、昔とは違うかたちではあるが、再び我々の身近なものとなりつつあるようだ。
(文・取材=A4studio)