山梨県は東京都にも面し、近年は八王子や立川に通勤する県民もいる。こうした“山梨都民”は山梨県の県勢を増す要因になっているが、全体的な傾向から見れば、明らかに人口は減少している。人口減少は県の趨勢にも大きく影響する。そのため、山梨県は産業活性化の模索を続けている。
近年、山梨県では地下水から汲み上げるミネラルウォーターが爆発的な人気となり、こぞって企業が進出。山梨県を牽引する産業として大きく成長してきた。特に南アルプスの麓に位置する北杜市には、サントリー食品インターナショナルを筆頭にミネラルウォーターの関連企業が集積した。その理由は、北杜市の地下から採水されるミネラルウォーターの量が豊富なことと、質がいいことが挙げられる。
しかし、時代とともに社会環境は大きく変化した。地下から採水することは、環境に大きな負荷を与えるとの非難が地元住民からも聞かれるようになった。そうしたことから、地方自治体などは採水制限を課したり、課税するといった動きが強まった。
山梨県でも、2012年度から水源涵養を目的にした森林環境税が創設される。個人・法人ともに税負担を求められた。ミネラルウォーターを採水するのは、ほとんどが企業だ。その負担を住民個人に求めるのはおかしな話だが、森林環境税は県の森林保全や水源保護といった県民の財産を守るための税金――といった理由から、幅広く課税されることになった。
山梨県はミネラルウォーターにさらなる税を課すために、新たな税金の創設も検討している。そうした事情もあり、山梨県へ進出を考えていた企業は慎重な姿勢にシフトしつつあるなか、新たに注目を集めている自治体がある。それが、長野県大町市だ。
ほかの市町村と同様に、大町市も人口減少が顕著になり、衰退を余儀なくされている。北アルプスの山麓に位置する大町市は、北アルプスの登山口として登山愛好家でにぎわう。登山者は市内の観光産業に大きな恩恵をもたらしているが、「実はその経済効果は限定的」(観光業界関係者)だという。
その大きな理由は、交通事情にある。北アルプスへの登山客の多くは、東京方面から大町へやって来る。そして、大町から北アルプスを越えて富山県側へと下りていく。もちろん、なかには再び大町へと戻る登山客もいるが、大半は富山県側からそのまま東京へと帰っていく。特に、北陸新幹線が金沢まで延伸を果たして以降、その傾向は強まっている。
東京から大町までは、特急で4時間前後。大町に前泊する登山者もいるが、早朝に東京を発ち、そのまま北アルプスへと入っていくことも可能だ。そのため、北アルプスへの登山者は大町をスルーする。登山客がもたらす経済効果が限定的というのは、大町がスルーされてしまうからだ。