つまり前方に何もなければその道路の中央を走るようにハンドル操作をし、一定のスピードでアクセルを操作する。前に車がいればブレーキとアクセルで速度を調整し、一定の距離を保ちながら追随走行をする。このように実にわかりやすいコンセプトです。
あとは2つのカメラからとらえた情報をもとに、どのタイミングでどうハンドル、アクセル、ブレーキを操作すれば車が安定して走行するか、その点だけを人工知能に学習させれば理論的には他社でもこの技術までは到達できるというわけです。ないしはカメラだけでなくミリ波レーダーと組み合わせることで、雨や霧といったカメラが苦手な天候でも運転支援ができるような機能も各メーカーで開発が進んでいくでしょう。
日本車メーカー各社が現在狙っているのは、その先の自動運転技術の確立ですが、ここから先は、実はここまでの技術とは違ったタイプのAI技術が必要になります。それをどう日本メーカーが乗り切るのかが問われています。
それは画像認識技術です。スバルのアイサイトを例にとると、同社のウェブサイトでも説明されているとおり、あくまでカメラで車だと認識できる先行者でないと、この追随技術は正確には作動できません。たとえば高速道路に鹿が飛び込んできたときは、基本的にドライバーが対応しなければいけないようです。
自動運転のゴールであるレベル5の自動運転では、高速道路ではなく一般道での走行が前提になりますので、鹿もそうですが、自転車、横並びで前を走るジョギングランナー、いきなり飛び出してくる子ども、坂道を転がってきたリンゴなど、なんでも認識して対応する必要が出てきます。
現在、アメリカではカルフォルニア州やテキサス州など公道で自動運転技術を実験できる州においては、こういった条件下での運転技術を向上させる実験が行われています。日本車メーカーも海外の優れた画像認識技術を搭載して、このような不測の事態にどう備えるかを日夜学習しているというわけです。
日本車メーカーの弱点
ここで日本車メーカーには、2つの弱点があると私は認識しています。
ひとつは画像認識技術の学習量です。AIというものはどうプログラミングをしたか以上に、どう学習させたかで育ち方に違いが出ます。その観点で、日本車メーカーのライバルであるグーグルなどは、開発コンセプトが日本車と違います。
AIを育てる際に、街中に何百台という実験車を走らせて、クラウドの先にある大型コンピューターがその何百の実験を同時並行で学習していく。そうすることで運転手が目にする画像についての学習量が格段に違ってくる。この差が、日本車メーカーとグーグルのどちらが先に、運転に必要な画像認識技術を完成させられるかの差につながると思います。
そしてもうひとつ、日本車メーカーの自動運転技術搭載車は、今のところスタンドアローンなのです。
AIの判断とそれが行う自動車操作が一体で行われていることもあり、現在の日本車の自動運転技術はAIのアップグレードを想定していません。しかし普通に考えれば、AIというものは日々学習して日々上手になっていくものです。3年前に購入したAI搭載車は頭が悪いままだというのが現在発売されている車の設計思想ですが、これはユーザーからしてみればなんとかしてほしいと思うところです。
そうではなく、画像認識とその情報をもとにした運転プログラムをもともと別々につくり、同時にどちらのプログラムも途中でダウンロードしてアップグレードできるように設計することは、IT企業的な考え方としては一般的です。ところが自動車会社はそういったITとしては当たり前の開発思想にまだ慣れていない。ですから一度購入した自動車の性能は、いつまでたっても買った日のままということです。
この2つの課題要素を日本車メーカーがどう乗り越えるかが、今後問われてくると思います。もし乗り越えられなければ、この世界の勝者がGAFAといった大手IT企業になってしまう。なんとしてもそうならないように、日本車メーカーにはがんばってほしいところです。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)