コロナ禍を経て、コストのかかる実店舗営業から撤退し、ECに舵を切る業態が増えている。さらに、第3の選択肢として注目されているのが「ダークストア」だ。欧米や中国では急成長しているというダークストアとは、店舗での対面販売は行わず、商品はすべて配送のみという業態を指す。店舗を倉庫を兼ねた物流の拠点とし、ネットで受け付けた注文に応じて顧客に配送するというスタイルが一般的だ。
「10分で届く宅配スーパー」が誕生
2021年8月、日本初のダークストア型宅配スーパー「OniGO(オニゴー)」が東京・目黒に1号店をオープンした。同店の最大の売りは配達時間の速さだ。なんと、注文してから10分以内に商品を届けてくれるという。
「ネットスーパーでも配達時間の指定はできますが、10~12時、18~21時など時間の幅があり、注文主はその間ずっと待機していなくてはいけません。コロナ禍で配送やネットスーパーの利用者は急増しましたが、配送時間の指定範囲に使いにくさを感じている人も多い。そこに事業機会があると思ったんです」
そう語るのは、OniGOを展開するOniGO株式会社の共同創業者・山本敬明氏。商品の到着を待つ時間が短縮されるのはうれしいが、注文から10分で届くというのは驚異的な速さだ。緊急性が高いシーンでの利用を狙っているのだろうか。
「緊急購買需要も想定はしていましたが、現状は日常的な利便性を求めているお客様の利用が多いですね。たとえば、近所のスーパーまで10分で行けるとしても、往復すれば20分。外出前の準備や買い物中の時間も足せば、トータルで30分以上かかってしまいます。また、子育て中で幼い子どもも連れ歩くとなると、より時間がかかるだけでなく、体力、気力も大幅に奪われてしまいます」(山本氏)
OniGOを利用すれば、配送料300円と引き換えに、時間だけでなく体力も節約できる。初出店のエリアを目黒区の学芸大学駅近辺にしたのも、そうした利用者層を踏まえてだという。
「出店の際に設定した条件は、高所得で子を持つ家庭が多く、スーパーが比較的離れた位置にあるエリアということ。あとは運営側に土地勘があったという点も考慮して、初出店地を学芸大学駅周辺に決めました」(同)
自社開発のアプリで最大限効率化
1号店の鷹番一丁目店に続き、21年10月には武蔵小山に2号店がオープンした。両店とも前述した条件に合う立地だが、山本氏いわく「利用者層については、うれしい誤算もあった」という。
「単身世帯やご高齢のお客様のご利用が、予想以上に多いです。特に米や水などの重たい商品や、大量の商品を一度にまとめて購入する際にご利用いただいています。また、雨天時や猛暑日など、買い物に行くのをためらうような天候のときは、年齢や世帯を問わず多くの注文が入ります。これからの季節では、雪や真冬日などに注文が増えるのではないでしょうか」(同)
幅広いユーザーを抱えるOniGOの注文は、専用アプリから行う。この独自開発のアプリも、注文から10分以内での配送を可能にしている理由のひとつだ。
「ユーザーが使う注文用アプリのほか、在庫管理用、ピッキング用、配達用の4つのアプリを、すべて自社で開発しています。我々の業務に最適化してつくられているので大変使いやすく、各セクションの業務がスピーディーに完了できるよう効率化もされています」(同)
実際に、注文を受けてから商品をピッキングし、配送ライダーに渡すまでの一連の作業を見せてもらった。まず、ユーザーから注文が入ると、ピッキング担当者(ピッカー)のスマートフォンに搭載された専用アプリに注文内容が表示される。商品名だけでなく商品画像も表示されるので、グラフィカルでわかりやすい。そして、店内のどこの棚に商品があるのかが表示されるのだが、巡回しやすい順にソートされているので動線もスムーズだ。
「商品を見つけたら、ピッカーが専用デバイスで商品のバーコードをスキャンします。注文内容と合っていれば次の商品が表示され、間違っていると次に進めない仕様です。これにより、『牛乳』と『低脂肪牛乳』などの見分けがつきにくい商品や、チキンバーの150gと200gなど見た目で内容量がわかりにくい商品などの取り間違えを防ぐための工夫がされています」(同)
配送時間を考えると、商品点数がいくら多くてもピッキングにかけられる時間は最長3分。それでもスピーディーかつミス防止の仕組みも徹底しているシステムの導入で、注文された商品を素早く取り揃えられるわけだ。
他のデリバリーサービスとは違う報酬体系
続いては配送。梱包の最長時間が3分なので、配達可能エリアは片道7分で行ける範囲である、店舗の周辺1.5km圏内となる。だが、その時々の交通量や信号のタイミングなどによっては、10分以上かかってしまう場合もあるのではないだろうか。
「正直な話をすると、到着まで10分を超えてしまうときもあります。しかし、一番重要なのは交通ルールを守り、安全運転でお届けすること。時間を守るために信号無視をしたり、歩行者を危ない目に遭わせるような速度で走行するのは危険ですから、その点は気をつけて配送しています」(同)
昨今隆盛しているデリバリーサービスの多くは、配達件数を増やせば増やすほど配送者の収入も増えていく給与形態を採用している。そのため、報酬欲しさに危険なスピードで運転する配送者も見かけるが、OniGOでは安全運転を徹底するため、ライダーは配達件数によるインセンティブが発生しない完全時給制になっている。
「OniGOは店舗ごとに配達エリアが決まっていますし、ライダーを直接雇用し、常に店舗に待機させています。そのため、ライダー間で『あのマンションへは、こっちの道から行くと信号がなくて近道になる』とか『あの道は工事中で通れない』など、情報やノウハウを蓄積・共有でき、スピードアップにつながっているのです」(同)
ギグワーカーのような単発の働き方ではなく、チームで日々同じ場所を走る。配達をするたびに組織としてのスキルが洗練されていくのは、OniGOならではの強みだ。
高齢者層へのアプローチも強化
今後の出店計画はどうなっているのだろうか。
「商圏同士が隣接するようなエリアを厳選して、店舗を拡大していきたいですね」(同)
つまり、「点」ではなく、徐々に「面」でカバーしていくイメージだ。既存店舗と隣り合うエリアであれば、すでにOniGOの事業内容や利便性を耳にしている人も多いため、まったくのゼロから宣伝していくよりはアドバンテージがあるのだという。
「現在は都内にしか店舗がありませんが、いずれは近隣県にも出店していきたいですね。その際にも、所得や家族構成の条件はもちろん、起点となる店舗を構え、そこから広げていきやすい地域に出店していけたらと考えています」(同)
さらに、「地域によらず、高齢者層へのアプローチにもより力を入れたい」(同)とのこと。アプリからの注文はシニア層にはネックかもしれないが、自社でアプリを開発しているOniGOであれば、操作しやすいUI(ユーザーインターフェース)の実現にも素早く着手できる。連動するアプリを自前でつくっている点は、今後も大きな武器となるだろう。
他のネットスーパーにはないスピード感が売りのOniGO。アプリの使い勝手や商品ラインナップの変化に加え、細やかな地域対応で独自進化を遂げ、ダークストアの需要を掘り起こしていく構えだ。
(文=鶉野珠子/清談社)