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東急電鉄、一気に運賃1割値上げの理由…JR東、一日239本の減便で収益確保

文=編集部
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山手線E235系電車(「Wikipedia」より)

 コロナ禍の2年で鉄道会社の経営環境は大きく変わった。テレワークを導入する企業が一気に増え、政府は在宅勤務の継続の旗を振る。郊外から都心の勤務地に通勤するという鉄道需要が蒸発した影響は大きい。

 各社は生き残りをかけて新たな移動ニーズの創出に取り組む。小田急電鉄は3月12日のダイヤ改正に合わせて、ICカード利用時の小児運賃を「全区間一律50円」にする。6歳以上12歳未満(小学生)の場合は半額となるが、小田急のように一律運賃にするケースは珍しい。

 新宿―小田原間の運賃(交通系ICカードを使った場合)は大人が891円で小児運賃は半額の445円だが、これが50円に引き下げられる。同時に小児用の通学定期券は全区間一律で1カ月800円とする。子育て世代の交通運賃負担を軽くして、小田急の利用者を増やす狙いだ。“小田急のファン”づくりの深謀遠慮であり、小田急沿線に住んでもらいたいという思いに溢れている。

 小田急は「子育て応援ポリシー」を策定している。子供が楽しめるイベントや駅への子供専用トイレの設置、車内のベビーカースペースの拡充などを展開中。19年からは1日全線フリー乗車券を通常の1000円から大幅値下げして100円で期間限定で販売した。

 ここでの経験が今回の小児運賃の値下げにつながった。「子育て応援ポリシー」時の調査では、運賃を下げたことで子供1人に少なくとも大人1人が小田急線を利用。7割弱の人がフリー切符を100円にしたことがきっかけとなって外出していた。外出した人のうち9割以上の人が沿線で買い物し、7割弱が小田急の施設を利用していた。運賃を下げれば減収となる。「子供運賃50円均一」で小田急は年間2.5億円程度の減収を見込んでいる。

 子供の外出に合わせて大人も外出し、小田急の施設で買い物などをしてくれれば、グループ内で減収分は取り戻せるとソロバンを弾いている。鉄道業界には「良いものはすぐ真似される」とのジンクスがある。関東の私鉄では小児運賃の「全区間一律50円」が広がることになるかもしれない。

 小田急は3月12日にダイヤを改正する。「着席して通勤したい」というニーズの高まりを受け、朝のラッシュ時間帯(午前6~9時)の特急ロマンスカー「モーニングウェイ号」を3本増発。一方、比較的利用の少ない日中・夕夜間帯の一部列車を減便する。藤沢―片瀬江ノ島間は特急ロマンスカーなどを除き、各駅停車による折り返し運転のみとなる。特急ロマンスカー・VSEは3月11日で定期運行を終了する。箱根観光専用の特急列車として2005年3月にお目見得した。展望席や大型の窓が特徴で小田急の代名詞となっていた。今後はイベント列車として運行する予定という。

東急は13%値上げを申請

 東急電鉄は1月7日、2023年3月の運賃値上げに向け国土交通省に運賃改定の申請を行ったと発表した。運賃を12.9%引き上げ、普通運賃の場合、距離に応じて10~60円値上げする。新型コロナウイルスの影響で利用者数は減少しており、今後も回復しないとみて値上げに踏み切った。

 大手私鉄でコロナを理由に運賃の上限を引き上げるのは東急が初めて。計画通り認可されれば、消費増税などを除き18年ぶりの値上げとなる。23年3月の値上げを予定。運賃の上限を定期外で13.5%、通勤定期で13.8%引き上げる。全体で12.9%の値上げになる。初乗り運賃は10円(交通ICカード利用時は14円)の値上げ。渋谷―横浜間は310円(従来は280円)になる。

 東急電鉄は20年度の定期輸送人員の減少率が大手私鉄のなかで最大となった。緊急事態宣言が解除された21年10月以降もコロナ前に比べて3割減が続いており、今後も利用客は戻り切らないと見ている。沿線住民に在宅勤務が増えた大手企業やIT関連企業が多いことが、落ち込み率を大きくしたという。

JR東、JR西は最大規模の減便

 JR各社は3月12日のダイヤ改正に合わせて、大幅な減便をする。新型コロナ禍で落ち込んだ利用の戻りが鈍いなか、コストを削減するのが狙い。JR東日本とJR西日本の削減は1987年の民営化以来、最大規模となる。人口が集中する都市部で運行本数を増やしてきた鉄道のビジネスモデルの転換を迫られているわけだ。

 JR東日本は定期列車の一日の運行本数を新幹線と在来線で計239本減らす。首都圏在来線の運行本数は朝のピーク時間帯の1時間で最大2割減となる。常磐線快速・常磐線は19本から15本、中央・総武線各駅停車(千葉方面行き)は23本から19本に削減。山手線も内回りで22本から20本、外回りで21本から18本に減らす。

 山手線、中央線快速、常磐線快速・常磐線、京葉線は日中の運行本数も見直す。東海道線、山手線などは夕方から夜にかけての運転本数を減らす。首都圏では終電の繰り上げは行わない。新幹線は定期列車を25本減らす一方、臨時列車を新たに42本設定。利用客の増減に機敏に対応し、繁忙期には集中的に増やす。

 一方、JR西日本は在来線26線について計206本を減便する。朝の通勤時間帯でも近畿を中心に運行本数を減らす。近畿エリアでは103本の減便となる。大阪環状線の場合、大阪駅を出る電車がピーク時の午前8時台で内回りが17本から15本、外回りが18本から17本になる。東海道線の高槻駅から大阪方面行きが午前7時台で24本から21本、三ノ宮駅の大阪方面行きが午前8時台で25本から23本に減る。

 山陽新幹線の「さくら」と「みずほ」、北陸新幹線の「かがやき」の定期列車の一部を臨時列車とし、需要に合わせた運転とする。JR西は21年3月のダイヤ改正で、近畿の主要路線で終電の繰り上げを実施している。JR東西はサービスより収益の確保に舵を切ったということだ。テレワークは確かに増えたが、ラッシュアワーが解消されるわけではないから、サービスの切り捨てという声が利用客から出るかもしれない。JR東日本のラッシュアワー時間帯をターゲットにした減便に通勤客がどういう反応を示すのか。

(文=編集部)

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