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金融庁・日銀がゴリ押ししたフィデアHDと東北銀行の経営統合、なぜ破談に?真相

文=Business Journal編集部
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東北銀行のHPより

 荘内銀行(本店:山形県鶴岡市)と北都銀行(秋田市)を傘下に持つフィデアホールディングス(HD、仙台市)と東北銀行(岩手県盛岡市)は、経営統合に関する基本合意を解除した。経営統合の発表から7カ月。“婚約”は解消された。

 長引く低金利や人口減少など地方銀行を取り巻く厳しい環境が続くなか、両社は21年7月、経営統合で基本合意した。フィデアHDを持ち株会社として3行が傘下の子会社となるかたちの統合を計画。22年10月の経営統合を目指していた。統合準備委員会を設置し、営業やリスク管理など8つの部会で実務的な協議を進めてきたが、「地元を重視する東北銀行と、県境をまたいだ広域性を特徴とするフィデアHDの経営戦略や組織体制に対する考え方の違いが埋まらなかった」(有力金融筋)。

 東北銀の村上尚登頭取は2月10日、本店で記者会見し、「広域での成長を目指すフィデアHDと、地域密着の当行との間に見解の相違があった」と述べた。フィデアHDの田尾祐一社長は「(当社は)持ち株会社体制を活用し、広域で事業を行う方針に変わりはない」とした。

 フィデアHDと東北銀は18年2月、包括業務提携し、事業継承や有価証券の運用などで協力してきた。統合に踏み込んだのは、地銀再編に前向きな菅義偉首相(当時)の下で、政府や日銀が策定した統合支援策に背中を押された側面もある。「広域」か「地域密着」かは地域金融機関の永遠のテーマである。フィデアHD、東北銀の挫折は地域金融機関の再編の難しさを浮き彫りにした。

「東北銀は飲み込まれてしまうことを警戒した」

「われわれは2番手グループ。1番手グループと違って奮起しないとビジネスモデルを築けない」。フィデアHDの田尾祐一社長は21年7月、仙台市で開いた記者会見で危機感を露にした。統合する予定だった3行が本店を置く山形、秋田、岩手の3つの県にはトップシェアを誇る山形銀行、秋田銀行、岩手銀行がある。地方経済は人口減少で資金需要が落ち込んでいる上に、新型コロナウイルス禍でさらに経営が苦しくなった。特に、「2番手」に位置する地銀にとって、経営基盤の強化が急務となっていた。

 フィデアHDは荘内銀行と北都銀行が2009年10月、経営統合し、新たに発足した会社で仙台市に本社を置く。一方、東北銀行は、岩手県盛岡市に本店を置く1950年設立の地銀。県の商工会議所の関係者が立ち上げた“戦後派地銀の第1号”である。総資産は2つのグループで合わせて4兆2429億円。東北では、七十七銀行(仙台市)、東邦銀行(福島市)に次ぐ規模になる。

 しかし、青森県を本拠地とする青森銀行とみちのく銀行が統合すれば、第3位から一つ順位が下がることになる。営業拠点は6県に広がり、東北3県に主な営業基盤を置く広域金融グループが誕生するはずだった。経営統合の狙いの一つに公的資金の返済があることは、まぎれもない事実だ。北都銀と東北銀は、それぞれ100億円の公的資金を受け入れており、返済に向けた財務の改善を急いでいた。

 フィデアHDの田尾社長は、みずほ銀行の元常務。取締役会議長の西堀利氏はみずほ銀行の元頭取である。荘内銀は創業時から安田財閥との関係が深く、安田の流れをくむ富士銀行、つまり、今のみずほ銀行出身者が経営の中枢を占めてきた。直接の資本関係はないものの、みずほ出身者が経営を実質、支配してきた地銀である。フィデアHDはメガバンク流の経営ノウハウを取り入れてきたことで知られている。

 荘内銀で20年4月から第4次中期経営計画がスタートするのに合わせて、田尾社長が荘内銀の頭取を兼務。持ち株会社と銀行のトップを一体化した。荘内、北都両行の経営企画部を仙台市のフィデアHDに集めた。同部はリスクや投資配分といった経営の根幹にかかわる重要な事項を決める部署だ。

 頭取や会長の人事決定権はフィデアHDの指名委員会が持つ。持ち株会社のフィデアHDが傘下銀行を支配する。傘下行の取締役も、フィデアの指名委員会が指名する形態になっている。フィデアの取締役会は11人中、8人を社外取締役が占める。社外取締役が過半を占める取締役会はガバナンスの監視・監督をする。業務執行は取締役ではなく執行役が担う、欧米流のガバナンス体制に移行していた。

 東北銀行が統合を白紙に戻した理由の一つにガバナンスを挙げた。東北銀の取締役もフィデアHDの指名委員会が決めることになれば東北銀の経営の自主性は、ほとんどなくなる。「地域密着」を統合解消の理由にあげたのは、あくまで建前。「完全に飲み込まれてしまう」(東北銀の元役員)ことを恐れたからではないのか、とみられている。

 金融庁や日銀が東北銀とフィデアHDとの統合を積極的に後押ししたのは、「東北銀が抱える100億円の公的資金を、早期に返済させるため」(東北地方の有力地銀の頭取)だった。だが結局、破談となった。「東北銀が単独で公的資金を返済するのは事実上、困難。新たな“嫁入り先”を見つけることになるだろう」(同)と取り沙汰されている。東北地方の金融再編は待ったなしだ。

青森・みちのくの経営統合は最終段階

 青森銀行とみちのく銀行は、それぞれ臨時株主総会を開き、22年4月に持ち株会社プロクレアホールディングス(HD)を設立し経営統合することが承認された。みちのく銀が抱える200億円の公的資金の返済はプロクレアHDが行うことも決まった。両行はHDの傘下に入り、24年度の合併を予定している。HD社長には青森銀の成田晋頭取が就任し、みちのく銀の藤澤貴之頭取は副社長となる。

 統合によってプロクレアHDの青森県内のシェアは7割超となる。「地銀の統合に独占禁止法を適用しない」との特例法の適用を金融庁に申請している。政府・日銀が東北で進めている地域金融機関の統合は1勝1敗の痛み分けとなった。

(文=Business Journal編集部)

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