新聞衰退の深刻さが増している。日本新聞協会が発表した「新聞の発行部数と世帯数の推移」によると、2021年10月時点での朝夕刊をセットで1部と数えた発行部数は、3302万7135部で前年比5.9%減少。国内での発行部数は、05年の約5300万部から減少の一途を辿っており、もはや歯止めがかからない状況である。
一方、朝日新聞社は21年3月期決算で営業損益が70億円の赤字、繰延税金資産を取り崩した純損益では、創業以来最大となる441億円の赤字であることを公表。業界トップクラスの朝日新聞社でさえ経営危機に瀕しているということだ。
果たして10年後、20年後に新聞は生き残っているのだろうか。生き残っているとしたら、どのようなかたちになっているのだろうか。そこで今回は、『新聞販売と再版制度』『新聞社崩壊』の著者で、元朝日新聞社販売局流通開発部長・販売管理部長の畑尾一知氏に話を聞いた。
新聞の購読者は人口の3割
まずは朝日新聞が11年ぶりの赤字に転落した理由について聞いた。
「これは朝日新聞にとってかなり衝撃的だったのではないでしょうか。11年ぶりとのことですが、ちょうど11年前はリーマンショックによる赤字でした。そのため朝日新聞に限らず世の中全体が落ち込んでおり、いずれは回復するだろうといった楽観的な考えもあったのだと思います。ただ、今回はそういった要因がないなかでの赤字転落なので、見通しはかなり悪いでしょう。
とはいえ急に赤字に転落したのではなく、数年前から売り上げはどんどん落ちている状況だったため、いつかは赤字になるだろうという予想は社内でもできていたはず。それにもかかわらずコストカットなどを怠ってきた結果、赤字に転落してしまったのです」(畑尾氏)
売り上げ減少という問題は朝日新聞に限ったことではない。新聞業界の衰退に歯止めをかけることはできないのだろうか。
「紙の新聞衰退はもはや止められないでしょう。かつては人口の半分以上が読んでいた新聞も、10年前に新聞を読む層は人口の約4割となり、この10年間も右肩下がりは止まらず今や人口の約3割となっています。
さらに現在の購読者を年代別で見てみると、70代以上が65%、60代が44%、50代が28%、40代が13%です。高齢者層で新聞を読んでいる割合はまだまだ高いですが、40代まで下がると1割強しか読んでいません。今の高齢者層が10年後、20年後にご存命でない方が多くいるだろうことを踏まえると、新聞の購読者はさらに激減することは明白なのです」(同)
衰退の原因は新聞社の責任も
新聞衰退の原因として、まず真っ先に思い当たるのがインターネットの普及だろう。
「インターネットが出てくるまでは、情報を入手する手段は新聞やテレビ、雑誌やラジオくらいでしたので、インターネットの普及が新聞衰退の大きな要因になっているのは間違いありません。今やネットを見れば、無料で最新のニュースが読める時代ですから、致し方ないでしょう。
さらにいうと、インターネットの出現は新聞の部数に大打撃を与えているだけでなく、広告収入の減少にも大きく影響を与えています。インターネットは新聞やテレビよりも安く広告を出せて、ときとして宣伝効果は新聞やテレビ以上になるため、スポンサーが流れてしまったのです」(同)
部数減少に加え広告収入も減ってしまった新聞社の経営が窮するのは自明の理だ。
「ただ、インターネットの登場といった対外的な要因だけではなく、新聞業界側の落ち度も見過ごしてはいけません。これもインターネット普及以前の情報収集手段が新聞やテレビなどに限られていたことに関係しているのですが、限られていたからこそ新聞やテレビが情報を独占し、“新聞を読まないと社会生活が成り立たない”という時代が戦前から続いていました。
そのため新聞社側としては強気でいられたわけです。例えば経営が苦しくなったら値上げして収益を確保するという、短絡的な対策ばかり取られていたのがその象徴。現に昨年も朝日新聞と毎日新聞が値上げを行っています。要するに経営努力を怠って、その努力不足による経営悪化を、値上げという読者に負担を強いる方法で難を逃れてきたわけですが、それがインターネットの普及で新聞やテレビの必要性が急激に薄らぎ、読者からしっぺ返しを食らっているという状況でしょう」(同)
新聞社側の努力不足の具体例としては、どのようなものがあるのだろうか。
「ブランケット判と呼ばれる新聞の大きなサイズは、明治時代から変わっていません。昔から購読している人であれば慣れ親しんだあのサイズに不満はないでしょう。しかし新聞に馴染みのない世代の人々からすれば、新聞自体がかさばったり処分がめんどくさかったりする点を、デメリットと感じているかもしれません。
例えば10年前、15年前ぐらいの段階でタブレット端末くらいのサイズの新聞も登場させていれば、読みやすさが改善されて購読する人が増えた可能性もあったのではないでしょうか。このような施策も前時代であればできたはずなのですが、あぐらをかいて読者のニーズに応える姿勢を持たなかった結果、今日まで変更されていません。このように新聞衰退の理由には、新聞社側の責任もあるように感じます」(同)
それでも新聞はなくならない?
ではズバリ、今後新聞はどうなっていくのだろうか。
「紙の新聞が生き残るのは非常に厳しいでしょう。というのも先に述べたように、購読者が減り続ける一方なのに加えて、紙面のサイズを変えるといったような対策も、全国で機械化されている現状では容易ではないからです。同じ紙媒体でも月刊誌であれば新しいコンテンツをつくったりそれを潰したりすることも比較的簡単ですが、新聞の場合は毎日発行するので、形態や方針を変えるのが非常に難しいのです。
それこそサイズを変えようとすれば、全国の印刷機を交換しなければいけないわけですから、労力やコストは計り知れません。そのうえサイズを変えたからといって購読者が確実に増える見込みがあるわけでもないので、もうここまで衰退して経営体力も落ちている状況では、新聞社側はサイズ変更については考えていないでしょう。
しかし新聞自体はヤフーやグーグルなど大手ニュースサイトに記事を売ることで、ウェブ媒体としては生き残っていくと思います。とはいえ、現在でもほとんどの新聞社がネットで新聞を購読できるサービスを行っていますが、自分の会社だけに購読者を呼び込むのに各社苦戦しています。大手ニュースサイトをフックにして、自社の新聞自体に興味を持ってもらい、ウェブ版の新聞を購読してもらえるように模索しているところなのでしょう」(同)
最後に畑尾氏は、やはり新聞社のクレジットとしての価値は残り続けると語る。
「紙の新聞がなくなったとしても、新聞社が潰れることはないと思います。というのも取材をして編集をしてそれを記事化するというのは、誰にでもできる仕事ではありません。そこには制作ノウハウや、取材ルートがあり、そういう手段を持っているのが新聞社や通信社だからです。
さらにクレジットとしての価値もあります。例えば取材をするにしても、フリーの記者が訪ねてくるのと、大手新聞社所属の記者が訪ねてくるのでは、インタビュイーからの信頼度が大きく異なります。このようなクレジットの信用性は、インターネットで生き残っていく際にも強みとして活かせるうえに、そうそうなくなるものではないでしょう」(畑尾氏)
紙の新聞衰退は避けられないのかもしれないが、メディアとしての信頼度の高さから、新聞社自体が潰れる可能性は低いようだ。近い将来、新聞がネットメディアとして充分なマネタイズをしていけるかどうか、注目である。
(文=あかいあおい/A4studio)