「楽天の三木谷浩史会長兼社長は菅義偉前首相だけでなく、岸田文雄首相にまで食い込んでいたのか」
楽天が先月に開いた創業25周年記念式典に、岸田首相、林芳正外相など現政権の閣僚が出席したことについて、携帯業界関係者の間ではこうした驚きの声が漏れたという。三木谷氏は菅前首相と蜜月関係にあることはよく知られているが、これまで岸田政権の「新しい資本主義」やコロナ対応を公然と批判してきただけに、衝撃はいっそう大きかった。
岸田首相「三木谷社長は情熱にあふれた人だ」と絶賛、林外相、後藤厚労相も祝辞
「三木谷社長は情熱にあふれた人だ」。政財界の要人など式典出席者約1000人の前で岸田首相はこう三木谷氏を持ち上げ、その挑戦心を褒め称えた。著名企業の祝典に政治家が祝辞を述べること自体は珍しいことではない。ただ、三木谷氏は岸田政権が掲げる「新しい資本主義」を「新しい社会主義」と批判し、新型コロナ対応の水際対策については「統計学的なメリットはかなり少ない」上、「ウィズコロナという風に向かっていかないと日本が忘れ去られていく。本来的にもう辞めてしまうほうがいい」と厳しい評価を下していた。岸田首相の祝典出席の背景について、総務省幹部がこう解説する。
「三木谷氏の政界での後ろ盾が菅氏ということは関係者なら誰でも知っている事実で、菅氏が三木谷氏にNTTドコモなど大手キャリア3社の寡占状態を打ち破るべく、携帯電話事業の進出を促しました。楽天は菅政権のときに携帯事業を拡大したかったのですが、菅氏が支持率向上のため大手キャリアに対する官製値下げを断行した結果、低料金という楽天本来の強みが薄れてしまった。期待した成果を上げられないうちに菅氏が退陣してしまい、三木谷氏はより幅広くロビイングする必要が出てきた。
携帯電話業界は規制産業で政界とのつながりが大きくモノをいうため、批判の対象だった岸田首相にもアプローチを強化したというわけです。今回の式典では岸田氏が派閥領袖を務める宏池会の重鎮である林外相なども呼べたわけですから、三木谷氏のロビイングは相当の成果を上げていると見られます。
岸田首相にしても看板政策の『デジタル田園都市構想』の実現や、ベンチャー育成強化を進めるために、IT業界の雄である楽天を取り込んでおきたい思惑があり、今回の祝典出席に至ったのでしょう」
楽天、今秋国会で可決見通しの電波法改正法案でプラチナバンド再配分目指す
楽天が現政権へのロビイングを強化した最大の理由は、今秋の国会で可決される見通しの電波法改正法案だ。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社が独占する、もっとも投資効果が高い周波数帯の「プラチナバンド」を自社に再配分させる狙いがある。
現在の楽天モバイルは利用できる周波数帯が大手3社の6分の1程度にとどまっており、電波がつながりにくいといった現象が起きやすく、ユーザーの評価を引き下げる要因になっている。楽天はプラチナバンドを獲得することで現状を打破したい考えだ。
ただ、ドル箱であるプラチナバンドを大手3社がみすみす手放すはずはなく、今回の法改正で設定される周波数帯の有効期限をドコモは10年、KDDIは7年という長期に設定しようとしている。この主張が通れば楽天モバイルのプラチナバンド参入は大きく遅れてしまうが、23年からのプラチナバンドの利用開始を譲ることはできないため、岸田政権に食い込み、政治力で再配分を実現しようとしているというわけだ。
30年までに連結営業利益率20%超え宣言も、足元では携帯事業の赤字が足を引っ張る
楽天グループの21年12月期連結決算は、コロナ禍の巣ごもり需要でメインの楽天市場は好調なものの、楽天モバイルの携帯通信事業が基地局整備などのコストが重くのしかかり、グループ全体では1947億円の営業赤字だった。楽天は携帯事業に本格参入してから2年が経過するが、基地局整備とKDDIに支払うローミング接続料が2つの大きな赤字要因となってきた。
基地局整備については今年2月の時点で全国に4万局以上設置し、通信サービスの提供範囲を示す人口カバー率は96%を達成、当初計画を4年前倒しで実現するなど急ピッチで進めている。ローミング接続料については、屋外について23年度にKDDIとの契約を打ち切りたい考えだ。
三木谷氏は25周年式典で、2030年までに楽天グループの連結営業利益率(国際会計基準)を20%超とすることを目指すことを宣言した。携帯電話事業の早期黒字化が絶対条件となるが、目先は今秋の電波法改正法案の行方に注目が集まりそうだ。