消費者庁は3月30日、「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を公表した。このガイドラインによって、食品添加物(以下、添加物)表示でよく見かける「無添加」や「不使用」に関する表示が一部規制されることになった。しかし、このガイドラインはあいまいな点が多く、運用次第では表示・表現の自由を奪いかねない危うさを秘めている。
今回は、消費者庁が示している禁止事例(類型)のなかの一つを検証してみる。
法律で使われている言葉が禁止?
【事例】
「人工甘味料不使用」のように、無添加、不使用と共に、人工、合成、化学、天然等の用語を使用するのは禁止
この表示を禁止するのは、かなり無理があり、論理的にも破たんしている。消費者庁はガイドラインのなかで「添加物には化学的合成品も天然物も含まれている」と認めている。食品衛生法では、添加物を「指定添加物」「既存添加物」「天然香料」「一般飲食物添加物」の4種類に区別している。しかも、指定添加物について厚生労働省は「この指定の対象には、化学的合成品だけでなく天然物も含まれています」と、化学的合成品と天然物を明確に区別している。香料では「天然香料」と区分名として天然を使用している。
さらに、日本食品添加物協会のHPでも、既存添加物と天然香料と一般飲食物添加物は「いわゆる天然添加物」のことだとして、天然添加物という用語を使用している。
厚労省は、指定添加物は「安全性を評価した上で、厚生労働大臣が指定したもの」であり、既存添加物は「平成7(1995)年の法改正の際に、我が国において既に使用され、長い食経験があるものについて、例外的に指定を受けることなく使用・販売が認められたもの」と、その違いをハッキリ示している。化学的合成品添加物は安全性を確認した上で使用が許可されたものであり、天然添加物(一部の指定添加物は除く)は安全性を確認しなくても許可されているものだとして、区別しているのだ。指定添加物と、添加物協会が天然添加物と言っている既存添加物とは、その許可条件も使用基準もまったく違うのだ。
事実を表示することも禁止?
「甘味料」「着色料」「保存料」「酸化防止剤」「発色剤」といった用語は、食品衛生法で定められている用途名であり、食品表示法の食品表示基準も食品衛生法に準拠している。しかも、こうした用途名を表示できる物質は食品衛生法で定められている。保存料として認められていない物質を保存料と表示すると、食品衛生法でも食品表示法でも違反になる。
つまり、保存料と認められていない物質しか使用していなければ「保存料不使用」と表示することは事実であり、食品衛生法上も何の問題もない。両法律で、保存料、酸化防止剤、発色剤等は、他の物質と明確に区別されており、法律用語になっている。保存料として認められている物質を使用していないという法的事実に対して、「消費者に誤認を与えるおそれがある」という非常に曖昧な理由で、証拠がないのに表示(表現)を禁止するというのは、まさに表現の自由どころか「事実を表現してはならない」という範疇にまで、消費者庁は踏み込んでいる。
消費者庁の規制はすでに始まっていた
消費者庁は「食品表示基準で『天然』又はこれに類する表現を認めていない」「人工及び合成の用語は食品表示基準から削除した」「化学調味料はJAS規格から削除された」と、使用禁止の理由を述べている。さらに「こうした表示(人工、合成、化学、天然)は、消費者がこれら用語に悪い又は良い印象を持っている場合、無添加あるいは不使用と共に用いることで、実際のものより優良又は有利であると誤認させる恐れがある」として、以前から事実上の表示規制をしている。そのため、今では人工、合成、化学、天然という表示は、ほとんど見かけなくなった。
消費者庁は、ガイドラインで頻繁に「消費者に誤認を与える」と指摘しているが、その根拠は示していない。消費者庁が実施した「平成29(2017)年度食品表示に関する消費者意向調査」が参考資料としてあるが、そのアンケートでは、食品購入時に、添加物表示を参考にしている人は「いつも参考にしている19.8%」「時々参考にしている38.7%」で計58.5%しかいない。添加物表示を参考にしないで購入している消費者が4割強もいる。
そもそも、4割強の人は購入時に添加物表示を参考にしていないので、表示が誤認を与えたことにはならない。しかも、6割弱の消費者に誤認を与えているかどうかも定かではない。ましてや、例えば「保存料不使用」をどう理解しているかのアンケート調査もしていないのだから、誤認を与えた根拠などない。消費者庁は、何の根拠もないのに「消費者に誤認を与える表示だ」と決めつけているのだ。
消費者庁がすべきことは隠すことではなく周知させること
法律で区別されている事実を表示・表現することが、どうして消費者に誤認を与えるのだろうか。食品衛生法で、安全基準を作る上で明確な理由で区別している用語を、食品表示で禁止をするということは、消費者にその事実を知らせないための手段であり事実隠蔽と言える。
消費者庁の役目は「添加物はどんな区分に分けられているのか、その理由はなんなのか、どうして化学的合成品と天然物を区別しなければならないのか」ということを消費者に周知・理解させることであって、事実を隠すことではない。
消費者庁は「添加物の不使用表示を一律に禁止するものではない」「ケースバイケースで判断する」と言っているが、裏を返せば「事実を表示してもガイドラインに準拠していないとして摘発することはある」ということになる。
消費者の意向で禁止されたのではない
今回の表示禁止は、『○○を使用していない』『無添加』の表示のある食品を、消費者に「購入させたくない」「安全で健康に良さそうだと思わせたくない」と考えている事業者及び日本食品添加物協会などの関係者たちの意見を反映させただけであり、多くの消費者が「紛らわしい表示だ、誤解を招く表示だから禁止しろ」と言っているわけではない。つまり、買う側の都合ではなく、売る側の一部の事業者の都合を全面的に優先させたものになっている。
しかも、今回のガイドラインでは「事実であっても表示を禁止することがある」とまで踏み込んでいる。
今回は「一般加工食品の容器包装」の範疇だが、法律(食品表示法の食品表示基準)に準ずるガイドラインで決められたことは、今後「食品表示基準で示されているように」と、他の分野でも容易に主張することができる。このガイドラインは、表示に限らず、都合が悪い表現を規制するための錦の御旗になる可能性が高い。消費者庁は、景品表示法も所管している。この法律は、すべての表示、媒体が規制対象になっている。ゆくゆくは「事実であっても、消費者(国民)に誤解を与えるので、マスコミ等で放送・掲載することも、SNS上で表現することも認められない」となるかもしれない。しかも、何の根拠もなく行政の裁量(判断)だけで、表示・表現が規制されたのだ。表示・表現の自由を、行政の裁量一つで禁止にすることができるガイドラインは、即刻廃止するべきだ。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)