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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

広瀬香美や小室哲哉がオーケストラ公演する理由…実は“おいしい仕事”?

文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師
広瀬香美や小室哲哉がオーケストラ公演する理由
広瀬香美オフィシャルサイトより

 今冬、ポップ歌手の広瀬香美さんが、オーケストラ公演【Kohmi 30th「ロマンスの神様」Symphonic Concert】を開催するようです。広瀬さんの代表曲『ロマンスの神様』は1993年、スキー「アルペン」のテレビコマーシャルで一世風靡し、僕も音楽大学を出たばかりの頃でよく聴いていました。それが、なんと今年になってTikTokで「ロマンスの神様」ダンスが大流行。再生回数も5万回を突破し、再ブレイクしているそうです。

 また、音楽プロデューサーの小室哲哉さんも、初のオーケストラ共演をするそうですし、今年はポスト・コロナを象徴するような大規模コンサートが目白押しとなっています。

 皆さんにとっては、ポップ歌手とオーケストラとの共演は、異種格闘技ならぬジャンルの違う音楽家同士のコンサートで、トラブルなく演奏するのは難しいのではないかと思われるかもしれませんが、まったく問題ありません。考えてみれば、ポップ音楽もクラシック音楽も、100年くらい時間をさかのぼれば同じ音楽に行き着きますし、そもそも音符自体が同じなので、問題なく演奏できるのです。

 実はオーケストラにとって、ポップ歌手との共演は“おいしい仕事”です。普段行っているクラシックコンサートのように、指揮者やソリストの出演料、広告、販売、楽譜購入、ホール確保の経費もまったく必要なく、決して楽な仕事ではありませんが、常に赤字で真っ青になっているオーケストラ事務局としては大助かりなのです。

 楽員のなかには、「ロマンスの神様の広瀬香美さん!」と、チャンスがあれば記念撮影をお願いして、一生の宝物にする人もいるに違いありません。かくいう僕も、同じチャンスがあれば、一緒に写真を撮ってもらうでしょう。

アメリカでは大規模なコンサートが頻繁に開催

 ポップ歌手とクラシックオーケストラの共演は日本だけの話ではなく、アメリカなどでも盛んに行われています。そこには日本と同じ事情がありますが、特にアメリカのオーケストラは、国や自治体からの援助がほとんどなく、企業や個人の寄付に頼って活動しているという背景があります。

 寄付者の興味をそそるためにも、ときには莫大なお金がかかる曲を演奏したり、高い出演料がかかるスター指揮者やソリストも常に雇う必要があるので、経営的に余裕があるように見えるオーケストラでも、実情は青息吐息。オーケストラ自身も必死にお金を稼ぐ必要があるので、コンサートのチケット収入はもちろん、ポップ歌手との共演は経営的に重要です。

 アメリカで1番の金持ちオーケストラといわれているロサンゼルス・フィルハーモニックでも内情は同じです。僕が副指揮者をしていた頃、夏の野外公演では毎週、ポップ歌手と共演していました。同じ週にあるクラシックコンサートでも、7000名くらい観客が来るのに驚きましたが、ポップ歌手とオーケストラの共演では、金曜日と土曜日の2日公演ともに2万人以上の観客でごった返したりするので、ポップスとクラシック音楽ではまったく観客規模が違うことを思い知らされました。

 その頃、健在だったレイ・チャールズをはじめとしてk.d.ラングや、歌手ではありませんが、『スター・ウォーズ』『インディ・ジョーンズ』の作曲家であり、最近ではウィーン・フィルハーモニー管弦楽団など、高齢になっても自作の映画音楽を精力的に指揮しているジョン・ウィリアムズも来ていました。普段は世界的指揮者やソリストとベートーヴェンやマーラーの感動的な演奏を繰り広げているロサンゼルス・フィルが、ときには大スクリーンを使って、子供用アニメ『バッグス・バニー』の音楽を演奏することもあります。

 その頃に開館したばかりのウォルト・ディズニー・コンサートホールで行われた『ファイナルファンタジー』コンサートでは、それこそ全米中のファンがホールに集結し、最後に挨拶に立った作曲家の植松伸夫氏に凄まじい大歓声が送られました。当時、副指揮者の僕は、本番指揮者に急病等があった場合にはすぐに指揮台に上がらなくてはいけない契約でしたが、チリ人の本番指揮者は元気そのもので、残念ながら『ファイナルファンタジー』を指揮するチャンスは訪れませんでした。

 ちなみに、本記事掲載日(8月13日)に兵庫県で『ファイナルファンタジー』のオーケストラコンサートが行われているようで、その人気ぶりは今も変わりません。

オーケストラとポップ歌手は相性が良い?

 ところで、日本ではこれまでにも、玉置浩二さん、中島美嘉さん、八神純子さん、谷村新司さんをはじめとして多くのポップ歌手がオーケストラと共演をしており、今年は岩崎宏美さんと野口五郎さんが東京フィルハーモニーで歌うコンサートがあっという間に完売し、NHKホールで追加公演が決定したくらいの大人気企画となりました。やはり、70~80名からなるオーケストラサウンドはスケールの大きさを感じさせるので、通常のバンドとのコンサートとは違うゴージャスなサウンドに、多くのファンが酔いしれるのでしょう。

 オーケストラとの共演は、読売日本交響楽団をバックに歌った、さだまさしさんを代表とするように、バラードのような長いフレーズを美声で歌う歌手に向いていると思います。弦楽器の美しく豊かな響きに、『精霊流し』の歌声が美しく響くことを想像してみてください。

 半面、オーケストラは、ハードロックのように音響器機を最大限に使い、大音量で強いリズムを刻むような種類の音楽は苦手分野です。そもそもオーケストラは、生の音にこだわっているというか、生音で演奏するようにできている音楽形態なので、補助的にマイクを使用する場合もあるにせよ、強烈なハードロックバンドのスピーカーから出てくる大音量に、オーケストラサウンドがかき消されてしまうからです。

 一度、オーケストラなどお構いなしに大音量で演奏するハードロック歌手のコンサートを聴いたことがあるのですが、オーケストラは一生懸命弾いているものの、実際に音が聞こえたのは1時間のコンサートで20秒程度でした。これではオーケストラが弾いている意味がありません。

 なかには、自分のステイタスを上げるためにオーケストラを雇う歌手もいるのではないかと思います。一方のオーケストラにとっては、一生懸命に演奏してもほとんど聞こえないのであれば、いくら儲かる仕事であっても複雑な気持ちになるでしょう。

 ちなみに、これまでに名前を挙げたポップ歌手は、オーケストラも力を発揮して、素晴らしいコンサートになることは間違いないことを、最後に言っておきます。

(文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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