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なぜソフトバンクGは突然、行き詰まったのか?要のファンド事業が全滅の背景

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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ソフトバンクグループ

 ソフトバンクグループ(SBG)は厳しい状況に直面しているようだ。これまで同社は、多額資金を調達し多くの企業に投資してきた。世界の景気が拡大し、株価が上昇すればSBGの業績は拡大する。ただ、好調な状況が永久に続くことはあり得ない。ここへ来て、世界経済は物価高騰や景気後退懸念に直面している。米国などでインフレ鎮静化のための金融引き締めが強化された。金利上昇や業績悪化懸念の高まりで、SBGが出資してき企業の株価が下落するケースも増えている。

 今後、SBGの事業環境はさらに厳しさを増すことが想定される。米国やユーロ圏では金融引き締めが長引きそうだ。世界全体で景気後退の懸念は高まり、株価にはより強い下押し圧力がかかりやすいだろう。米国で暗号資産(仮想通貨)の大手取引業者、FTXトレーディングが経営破たんしたことも軽視できない変化だ。先端分野のスタートアップ企業などで、同様のケースは増える恐れがある。中国経済の先行きも一段と不透明だ。SBGはポートフォリオのリスク管理を強化しつつ、アリババ・グループに続く企業を見出さなければならない。そのために、構造改革は一段と強化されるだろう。

厳しさ増すSBGの事業運営

 11月11日、SBGが発表した7~9月期の連結決算(国際会計基準)を見ると、投資事業の厳しさが一段と増している。別の見方をすると、同社の事業は、これまで以上に中国のアリババ・グループ株の含み益に依存している。決算説明会資料の冒頭、SBGは“守り”を強化する考えを、これまで以上に強調した。孫正義会長兼社長は「上場株も未上場株もほぼ全滅」「現在は守りを固める時期」と述べた。ビジョンファンド事業は赤字に陥り、新規の投資も縮小した。SBGは赤字を埋めるために保有してきたアリババの株を手放し、4.3兆円の利益をねん出した。その結果、四半期ベースの純利益は3兆336億円、3四半期ぶりの黒字を確保した。

 背景には、米国の利上げなどによって投資先企業の株価が下落したことが大きい。昨年11月末、FRBのパウエル議長は「物価上昇が一時的」という認識が誤っていたと認めた。2022年3月にFRBは利上げを開始し、6月以降は従来の3倍のペースで追加利上げが行われた。その結果、超低金利と過剰な流動性供給(カネ余り)、環境の長期化期待と強い成長期待によって株価が大きく上昇したIT先端企業の株価が下落した。シェアリングやサブスクリプション分野での競争が激化したこともIT先端企業の業績を悪化させた。人工知能が世界を大きく変えると考え、IT先端企業の株式に積極的に投資したSBGの業績は急速に悪化した。

 それに加えて、SBGは中国経済の急速な環境変化にも直面している。その一つが、配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)だ。SBGはディディに120億ドル超(1ドル140円換算で1兆6800億円超)を投資した。その後、共産党政権によるディディへの調査実施、上場廃止決定などによって株価は下落した。2022年9月末時点、ビジョンファンドにおけるディディの時価総額は17億7900万ドル(2,490億円)に落ち込んだ。当面、孫氏は決算説明会に出席しない。主要投資家が期待した追加の自社株買いも発表されなかった。経営陣が想定した以上にSBGは厳しい状況に直面していると考えられる。

SBGの収益力はさらに不安定化の恐れ

 当面、SBGの収益にはより強い下押し圧力がかかる恐れが高い。一つの要因として、IT先端分野や仮想通貨のスタートアップ企業に対する熱狂が冷めつつある。その象徴の一つが、SBGが1億ドル(約140億円)弱を投資した米国の仮想通貨交換業者FTXトレーディングだ。11月11日、FTXは米連邦破産法11条(チャプターイレブン)を申請し、経営破たんした。一時、高い成長は間違いないと注目された新興企業の淘汰は加速する恐れが増している。メタやアマゾンなどのリストラ発表も先行き懸念を高める。

 コロナ禍が発生して以降、世界の株式市場では超低金利環境の継続期待に支えられてスタートアップ企業への投資熱が大きく高まった。その状況下、FTXは米ドルのキャッシュではなく自社が開発した仮想通貨であるFTXトークン=FTTの価値高騰によって、資産規模を膨らませた。同社を起業したサム・バンクマン-フリード氏は政治献金などを積極的に行い、一時、「天才経営者」「仮想通貨の救世主」として注目を浴びた。競合他社に先駆けてバンクマン-フリード氏に出資し、高い成長を取り込もうとする主要な投資ファンドが増えた。

 こうして資金繰りなどに対する不安を、過度な成長期待が上回ったのである。買うから上がる、上がるから買うという根拠なき熱狂が沸き起こった。同様の心理は、米国の新規株式公開(IPO)市場にも当てはまる。2020年4月以降の米国株式市場では特別買収目的会社(SPAC)による買収を経由してIPOを行う企業が急増した。SBGが出資するシンガポールのGRAB(配車アプリ)や米国のバークシャー・グレイ(人工知能とロボット開発)などもSPAC買収によるIPOを果たした。

 SBGが熱狂に巻き込まれ、勇み足気味にスタートアップ企業に出資した可能性は慎重に考えるべきだ。2022年11月のFOMCにてパウエルFRB議長は、インフレ鎮静化は道半ばと述べた。米国のインフレ率は依然として高い。金融引き締めは主要投資家の想定以上に長引く可能性が高い。金利は上昇し、米国経済の減速は避けられない。それは新興企業の業績、財務に無視できない打撃を与える。株価により強い調整圧力がかかる展開は否定できない。それが現実のものとなれば、SBGはより強い逆風に直面するだろう。

アリババに続く高成長企業の発掘は急務

 当面の間、SBGアリババ株の放出によって純利益をねん出しなければならない状況が続きそうだ。かつて、孫氏はSBGを“金の卵を産むガチョウ”になぞらえたことがある。その核に位置づけられるのがアリババだ。孫氏は、アリババ創業者のジャック・マーの才覚を見抜き、いち早く出資した。その後のアリババの急成長がSBGの投資ビジネス拡大を支えている。

 ただ、いずれアリババ頼みの事業運営は限界を迎えるだろう。アリババの成長期待は大きく低下している。習近平政権によるIT先端企業への締め付けは、一段と強まっている。習氏は、自らの支配体制を強化している。そのために、情報統制は強化されている。貧富の格差拡大の食い止めのための共同富裕政策もより強力に推進される可能性は高い。結果的に、アリババの事業運営はより強く制約されるだろう。コストカットのためにアリババは一段とリストラを強化せざるを得なくなるだろう。それはSBGの資金調達、投資実行にとって無視できない不確定要素といえる。

 別の観点から考えると、SBGはアリババに続く高成長の可能性が高い企業を複数発掘しなければならない。現時点でその候補に挙がっているのは英国の半導体設計企業であるARM(アーム)だ。決算説明会にて、孫氏はアームの成長加速と、より高い価格での株式再上場の実現に集中すると表明した。中長期的な目線で世界経済の展開を予想すると、ウェブ3.0の到来などによって最先端のロジック半導体需要は増えるだろう。それは、アームのチップ設計技術を増加させる要因の一つになる。

 そうした世界経済の環境変化のダイナミズムをよりよく取り込む一つの方策として、SBGは最先端の半導体製造技術などを持つ企業により積極的に出資する展開が考えられる。そのためにSBGは構造改革を加速しなければならないだろう。既存ポートフォリオのリスク管理体制の強化は避けられない。高い成長が期待される企業家を見抜く人材の登用も急がなければならない。それは、ソフトウェア関連企業に加えてハードウェア企業にも資金を投じ、リスクを分散することに寄与するだろう。世界的に株価の調整懸念が高まりやすい状況であるだけに、SBGは正念場を迎えている。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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