原因は漬物と「だしサービス」?やよい軒、業績急回復の意外な理由、店舗訪問で判明
日本フードサービス協会がまとめた「外食産業市場動向調査10・11月度」からは、人流の順調な回復に伴う売上増の一方で、外食業界では人件費を含む原価高騰と感染拡大への不安が再び高まっていることが見て取れる。
・以下、同調査より抜粋
<10月は11日より「全国旅行支援」や「水際対策の大幅緩和」が始まり、秋の訪れとともに全国で人の流れが活発化し、おおむね店舗数減少の中でも客数増となり、価格改定による客単価増とあいまって、全体売上は114.8%となった。業態によって差異はあるが、全体では19年対比で初めてコロナ以前を上回り105.5%になった。しかし、新たにインフレとの闘いという難問に直面している>
<ファミリーレストラン業態 店内飲食の回復に伴い、各地の営業制限が続いた前年との対比では120.3%になったが、19年対比では96.7%にとどまる。夜間の客数の戻りは鈍く、来店目的が明確な専門店ほど回復傾向が強い>
<11 月の外食は、コロナ第 8 波が拡大中も行動制限がなく、相次ぐ価格改定に加え、インバウンド受け入れや全国的な旅行支援が10月から実施され、おおむね表面上の売上数値は伸びて対前年比 108.9%となった。だが原材料費、エネルギー費、人件費等の高騰は価格改定ではカバーしきれないほど大きい。さらに、自粛気味の消費マインドが加わり、とくに夜間の客数が振るわず、全体として勢いのある回復 とは言えない。事業継続の足かせがほぼ無くコロナ前の外食シーンに戻りつつある欧米とはかけ離れた状況となっている。ファミリーレストラン業態(抜粋) 全体売上は前年比107.5%、19年比では93.9%となった>
振り返るとこの1年はウィズコロナという特殊な環境ではあるものの、店舗の営業時間や外出に関する各種規制が解除されたことに加え、全国旅行支援により人流が回復し需要が喚起された。客数の前年比が低水準であった業態も多いが、ファストフードとファミリーレストラン業態に関しては順調に客足が回復してきているといってよい。訪日旅行者に関しては本格的な回復にはほど遠いまでも、国内の需要喚起施策である旅行支援が国内旅行の底支えを果たしている。
プレナス
今回はテイクアウトとイートインと2つの大黒柱を持つプレナスを取り上げてみたい。同社は持ち帰り弁当の「ほっともっと」と定食レストランの「やよい軒」を主力ブランドとする。店舗売上高対前年同月比推移(直轄エリア)は、「ほっともっと」は対前年比100%前後で推移し、昨年の累計は101.4%(全店)、「やよい軒」は107~127%で推移し昨年の累計は119.7%(全店)となっている。
「やよい軒」といえば、すぐ頭に浮かぶイメージは「おかわり自由の定食屋さん」ではないだろうか。店内に置かれた大型の保温ジャーから好きなだけご飯を盛ることができる。2019年におかわり有料の実験をいくつかの店舗で実施した際に多くのファンからブーイングが寄せられニュースになったことも記憶に新しい。感染予防策でおかわりの提供スタイルは大きく変わった。おかわりロボットを採用し、お客自身が好きな量を選択することができる自由度を残し、おかわり自由を現在も継続している。
定食屋チェーンのなかで多くの耳目を集めるライバル同士の大戸屋と「やよい軒」。2020年にコロワイドが大戸屋を買収した目的の一つとして、セントラルキッチンの稼働率向上が挙げられる。コロナ禍にかかわらず居酒屋業態が集客に苦戦するなかで、安定的に食材を供給できる先として大戸屋が選ばれたのではないか。コロナ禍もあり、大戸屋の経営が厳しい。客数の前年比増減率は通期平均21.8%増、売上高は28%増と健闘しているが、営業利益は23年3月期まで3期連続マイナスが見込まれている。
一方、「やよい軒」を運営するプレナスは19年2月期こそ営業利益が前期比マイナスであったが、20年2月期から3期連続でプラスの見通しとなっている。コロナ禍に伴うテイクアウト強化は「ほっともっと」が担当し、復活を見せつつある店内飲食は「やよい軒」が需要を吸収して相乗効果を発揮しているように見える。
優秀な「おかわりロボ」
久しぶりに「やよい軒」の銀座インズ店を訪れたが、コロナ禍による非接触の仕組みがかなり導入され、以前と見違えたという印象を受けた。まず店舗入口に設置された注文・精算の機械で食券を購入。その後は座席を確保し、店舗スタッフに声をかけ食券を渡す。店舗スタッフは食券を受け取ると同時に漬物の入った容器を席に置き、厨房に注文を通す。調理が終わると、店舗スタッフが自席に料理を運んでくれる。回転寿司店のように店舗スタッフと非対面のスタイルではなく、サイゼリヤのように適度な頻度でスタッフと接触する。
今回注文したのは、定番商品である「しょうが焼定食」670円(税込み)。見た目は量が減ったような気がしたが、味わいは以前と変わらず安心して食べることができた。原価高騰で仕方のない面もあるだろう。
銀座インズ店では配膳ロボット・SERVIと「おかわりロボ」が稼働していた。やよい軒に限らずロボットとの協業は、外食産業における人手不足を補う重要なポイントだ。各社多少の違いはあるものの、人でなければできない仕事と人でなくてもできる仕事のすみ分けがカギとなっている。最近は導入店舗も増えたため、客も配膳ロボットに慣れてきた印象を受ける。やよい軒で活躍する「おかわりロボ」はなかなか優秀だ。欲しい量のご飯がスイッチひとつで出てくる。以前の保温ジャーより衛生面において優れていると感じた。
2020年9月から始まった「だしサービス」も「やよい軒」ファンをうならせている。「漬物でだし茶漬けに、そして銀鮭の塩焼き定食で鮭茶漬けに」というコピーも振るっている。固定ファンが頻回に通うことで業績を支えてくれるのは企業にとっても喜ばしいこと。客が喜ぶ仕掛けで会社の業績も伸びれば、まさにWIN-WINの構図ではないだろうか。
漬物の存在感
筆者が個人的に注目するのは漬物の存在感。「かつや」と同様に「やよい軒」にも漬物ファンが存在すると思われるが、単なる箸休めの存在ではなく、定番商品に勝るとも劣らない。変わらぬ味で客を魅了する漬物は、それだけで客が店に足を運ぶ動機の一つとなっている。基本の商品群がしっかりしてこそ、季節限定商品や新商品などの取り組みが可能となる。
たとえばマクドナルドのグラコロを例にすると、毎年2アイテムが販売されるが、ひとつは変わらぬ基本形のグラコロであり、ひとつはアレンジ商品となっている。基本形があるからこそ、ファンも安心してリピートする、そんなサイクルをマクドナルドは長年にわたって形成している。「かつや」もしかり、定番のかつ丼とロースかつ定食が盤石だからこそ、期間限定商品で客を楽しませてくれる。
大戸屋は19年春のグランドメニュー改定において、基本商品だった「大戸屋ランチ」をなくし、多くのファンが離れた。客は価格にも敏感だが、定番商品の質にもこだわりを持つ傾向がある。量が少し減っても価格を維持してほしい商品や、価格が上がっても量と質を維持してほしい商品など、どの商品がどの位置付けになるのかを把握することが重要だ。質を落とすことは致命的な事態を招くこととなる。企業の目線だけでなく、客のニーズに合わせた商品・価格戦略が求められる。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)