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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

丸美屋、23年連続増収の秘密…ふりかけ市場で圧倒的人気を守り続ける顧客戦略

文=高井 尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

丸美屋、23年連続増収の秘密
「混ぜ込みわかめ」でつくったおにぎり(写真提供:丸美屋食品工業)

 年末年始はクリスマスや正月もあり、家庭の食卓にも華やいだ料理が並ぶ。年が明けて「松の内」を過ぎると通常の食卓に戻っていき、即席食品の消費も増えるという。

 2月は、どうなのか。昔から小売業界には「二八」(ニッパチ)という言葉があり、2月と8月は消費が低迷する月といわれた。8月は旅行や帰省需要もあるが、1年でも寒い日が続く2月は、行楽や外食など消費マインドも冷え込みがちだ。

 そこで今回は、家庭の食卓に登場機会が多い「ふりかけ市場」に焦点を当ててみた。2020年から続くコロナ禍を反映して、“巣ごもり特需”が見られたり、通勤減や旅行の制限で“手作り弁当需要”が減ったりするなど、消費生活の変化にも左右されてきた。

 同売り場には、ドライ(人気は「のりたま」「おとなのふりかけ」「ゆかり」)、混ぜごはんの素、ウェットなどの商品が並び、市場規模は400億~500億円台といわれる。

 今回は、おむすび・混ぜ込み用ふりかけ市場首位の「混ぜ込みわかめ」(丸美屋食品工業)を取り上げた。マーケティング担当者に顧客戦略を聞きながら、消費者心理も考えてみた。

おむすび・混ぜ込み用では圧倒的に強い

 ふりかけのドライタイプで人気は、前述の「のりたま」(丸美屋食品工業)、「おとなのふりかけ」(永谷園)、「ゆかり」(三島食品)だが、おむすび・混ぜ込み用は以下となっている。ベスト10のうち8商品が入る、丸美屋「混ぜ込みわかめ」が圧倒的に強いのだ。

【「おむすび・混ぜ込み用ふりかけ」の売れゆきランキング(2022年1-12月)】 
(1)「混ぜ込みわかめ 鮭」(丸美屋食品工業)
(2)「混ぜ込みわかめ 若菜」(同)
(3)「混ぜ込みわかめ 梅じそ」(同)
(4)「混ぜ込みわかめ」(同)
(5)「混ぜ込みわかめ しらす」(同)
(6)「混ぜ込みわかめ おかか」(同)
(7)「炊き込みわかめ」(三島食品)
(8)「ひろし」(同)
(9)「混ぜ込みわかめ 和風ツナマヨ」(丸美屋食品工業)
(10)「混ぜ込みわかめ 香るごま油味」(同)
(出所:各方面への取材を基に筆者作成)

「『混ぜ込みわかめ』発売は1988年8月で、今年で35年となります。わかめや具材を手軽にとれる素材系として人気ですが、発売直後にブレイクしたわけではありません」

 丸山すみれさん(マーケティング部 ふりかけチーム 課長)は、こう説明する。丸山さんはマーケティング歴20年超で入社以来、ふりかけ市場の流れとも向き合ってきた。

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都内の小売店店頭にはランキング上位の「混ぜ込みわかめ」シリーズが並んでいた

「ごはんへの注目」や「節約志向」で売り上げが拡大

「混ぜ込みわかめの使われ方は、ほぼ、おにぎり用です。味は、鮭や梅じそなど定番から新味まで26種類(2023年2月現在)あり、近年も新商品を投入しています。発売当時は『おむすび山』(ミツカン)の全盛期で、混ぜ込みわかめは徐々に浸透していきました」(丸山さん)

 おむすび山の発売は1982年、あたたかいごはんに混ぜれば、おにぎり(おむすび)がつくれる斬新さで人気を呼んだ。ベスト10を紹介した前述のランキングでは、12位に「おむすび山 鮭わかめ」が、13位に「おむすび山 青菜」が入っている。

 だが80年代、丸美屋は「おむすび山」の対抗商品をしばらく投入しなかった。当時の社内には「(看板商品の)のりたまで、おにぎりはつくれるでしょ」という気風があったという。

 88年の発売から十数年後におむすび山を逆転したが、過去の売上拡大期は複合要因があった。

「1993年に記録的な冷夏によるコメ不足でタイ米を輸入したり、97年に消費税の税率が3%から5%に上がったりするなど、ごはんへの注目が高まったり、節約志向が強まるなどのタイミングで、売り上げが拡大していきました」(同)

 現在、商品シリーズ全体の売り上げは70億円近くあり、シリーズ全体では、ふりかけ首位の「のりたま」を上回る。

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1960年発売の「のりたま」は、3年前に60周年を迎えた(2020年12月撮影)

食べるのはつくってから3~6時間後

 同じように、ごはんにかけるふりかけでも、「のりたま」と「混ぜ込みわかめ」では、商品設計が違う。前者は主に温かいごはん、後者は主におにぎり用というのもある。

「混ぜ込みわかめ」の商品パッケージには、「あったかごはんに混ぜるだけ」が全商品に明記。さらに半数近くの商品には「大きめ具材で、冷めてもおいしい!」の文字があった。ちなみに「のりたま」よりも塩分が多い。

「混ぜ込みわかめは、ごはんが冷めてもおいしいようにつくっています。つくったおにぎりをいつ食べるかで時間は変わりますが、消費者調査をすると3~6時間後が多いです。社内で新商品や改良品を試食する際も、ごはんに混ぜてつくって3時間は置いてから試食します」

 井原幸太郎さん(マーケティング部 ふりかけチーム 係長)は、こう説明する。2009年の入社以来、10年以上商品開発に携わった後、2021年からマーケティング担当となった。

「家庭でつくるおにぎりは、固さや食べたい大きさによっても変わります。握り具合もそうですね。それぞれのご家庭ならではの味や食感もあると思います」(井原さん)

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ふりかけのマーケティングを担当する井原幸太郎さん(写真提供:丸美屋食品工業、撮影のためマスクを外しています)

 地域によって好まれる味はあるのだろうか。

「おにぎりが大好きなエリアがあり、北陸から静岡や愛知にかけての中部北陸地方です。このエリアは当社の販売する『釜めしの素』シリーズも支持してくださいます。具材はそこまで地域差がありませんが、“混ぜ込みわかめ しらす”は北日本が強いですね」(丸山さん)

30種類近くあるのは「お客の選択肢を増やす」ため

「私が最初に担当した当時は7~8品でしたが、シリーズ品も増えていきました」

 こう話す丸山さんに、ここまで増えた理由を聞いてみた。

「たとえば、おにぎりを毎日持参するような中学生や高校生だと、味のバリエーションを求められます。鮭は好きな味だけど毎日では飽きてしまう、といった声ですね。

 実は、初めて使うという方が一定数いて、学生さんは卒業もありますから、毎年ユーザーの約3分の1は入れ替わっています。たとえば『あったかごはんに混ぜるだけ』のメッセージも<前も伝えたからいいでしょう>ではなく、新しいお客さまと向き合う姿勢でいます」(同)

 2018年に発売した「和風ツナマヨ」がヒットし、2021年には「香るごま油味」も投入した。ほかに“味めぐり”と題して、「鯛めし風」や「うなぎひつまぶし風」などもある。

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新味として投入した「混ぜ込み 香るごま油味」、右は期間限定品の「鯛めし風」と「うなぎひつまぶし風」

「和風ツナマヨは、コンビニおにぎりの人気商品ですし、香るごま油味は韓国のりが食卓に浸透したのも意識しました。一方、味つけでは、たとえば鯛めしは淡泊になりがちなので、商品開発部が試行錯誤の末、ゆずで引き立てるようにしています」(井原さん)

 さまざまな味があるのは消費者にとって便利だが、各社の事業部を取材すると「SKU(Stock Keeping Unit=在庫管理上の最小の品目数)の視点からも商品アイテム見直しが必要」という声をよく聞く。「混ぜ込みわかめ」についてはどうなのか。

「その視点は承知していますが、お客さまの選ぶ楽しさをできるだけ優先したいですね。社内では管理が煩雑になるので喜ばない部署もありますが、全社的には一度発売した商品は辛抱強く持ち続け、あまり手仕舞い(終売)にしたがらない社風です」(丸山さん)

ふりかけ市場は横ばい、丸美屋は23期連続増収

 冒頭で紹介した、コロナ禍で“巣ごもり特需”が生じた一方、“手作り弁当需要減”なども影響した、ふりかけ市場の現状も聞いてみた。

「業界全体では2022年7月以降好調で、上半期の落ち込みを下半期でカバーし、年全体では横ばいでした。当社のふりかけは業界平均よりも上回り、前年比104%となっています」

 コロナとの付き合いも4年目となり、繁華街や観光地には人流も戻ってきた。業績が回復基調となった企業がある一方、厳しい業績が続く企業も多いが、丸美屋食品は好調だ。

 同社の2022年度売上高(総売上)は585億円と23年連続増収を記録した。

 部門別では、“ふりかけ”が前年比104%、“中華”(麻婆豆腐の素など)が同100%、“釜めし”(釜めしの素など)が同106%、“お茶漬け”が115%となっています。唯一落ち込んだのが“キャラクター”で同88%でした」(広報担当)

 ここでいう“キャラクター”とは、ふりかけやお茶漬けの容器・パッケージに記載されるキャラクター(タイアップ商品)のこと。一昨年は、ご存じ『鬼滅の刃』が爆発的人気を呼んだが、昨年はブームが一段落したのだ。

「めんどくさい」と向き合い、「ひと手間」意識に期待

 企業現場を取材すると、現代の消費者は「めんどくさい」がキーワードの1つだと感じる。特に食品分野は顕著だ。働く女性も7割となり、社会全体が忙しくなったのもある。

 個食化の流れもあるが、即席麺では袋麺よりもカップ麺の市場が大きく、即席カレー市場は、調査会社の調べでは、2017年にレトルトカレーの市場が、ルーカレー市場を抜いた。

「時短」もキーワードの1つだが、とはいえ、どんな時でも簡略化するわけではない。コロナ禍初年は「袋麺市場」も大幅拡大した。在宅勤務が増え、昼食などに袋入りのインスタントラーメンに、ひと手間かけて野菜などを入れてつくる人が増えたと考えられる。

「当社は簡単にごはんをおいしく食べられる商品が多いですが、合理的だけでもありません。ひと手間かけておにぎりを握るなど、つくられる方の愛情もあります。

 でもみなさん忙しいので、メリハリをつけています。消費者調査で“おにぎり好き”な消費者モニターさんに聞くと、混ぜごはんの素ではなく、焼いた鮭や梅干しをおにぎりの具に入れるのは、土日などの休日だと話されます」(丸山さん)

 商品訴求も、これまでの機能性から情緒性も意識したいと話す。たとえば「きもちがこもった、あたたかい毎日へ。」という文言を、今後は商品パッケージにも記載していくという。

「コメ離れ」が進むのは懸念材料だが、米食消費減の割に影響が少ない、ふりかけ市場。食品値上げが続き、消費生活が厳しくなるのは、丸美屋の商品には追い風となりそうだ。

(文=高井 尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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